燈鷹大学に入学した遙。 水泳部では新人戦に向けて練習が始まろうとしていた。 そんな折、遙は中学生時代のチームメイトである旭と再会する。 ともに上京していた真琴も交え、喫茶店で当時の思い出を語り始める遙たち。 話題はもう一人の中学時代のチームメイトである郁弥のことだった。 関東の大学1年生が出場する新人戦当日。遙はフリー100Mでデビュー戦を飾ることに。 同じレースには旭も出場しており、遙と旭は数年ぶりのフリー対決に火花を散らす。 接戦を制したのは遙だった。 そんなレースを冷ややかに見つめていた日和はぽつりと呟く。 ――「なぁにあれ。ただの郁弥の劣化コピーじゃん」と。 試合が終わり遙と旭は互いの健闘を称えあった。 そんな遙の視界を過ぎったのは、 今、まさに目の前を通り過ぎようとしている――郁弥の姿だった。
中学1年生の夏。 大会のメドレーリレーで結果が出せなかった遙たちは、 リレーメンバーで自主合宿を行うことに。 その夜、目を覚ました遙がプールへ向かうと、 そこには一人、星空を見上げる郁弥の姿があった。 郁弥は遙のように泳げるようになりたいと強い思いを打ち明ける。 そして、フリーで勝負をしようと約束を交わす。 しかし、遙に追いつきたい一心で焦った郁弥は、練習中に酸欠事故を起こしてしまう。 遙に助けられ大事には至らなかったものの、 二人のフリー対決は果たされないまま夏は終わってしまった。 月日は流れ、遙が郁弥の泳ぐ姿を見たのは新人戦の会場だった。 郁弥のフリーが自分の泳ぎに似ていることに驚く遙。 試合の帰り道で遙は郁弥と6年ぶりに対面する。 郁弥は以前よりも冷たい表情で遙にはっきりと告げる。 「もう、リレーは泳がない」と――。
オーストラリアへ旅立った凛は、 クラブチームで世界各国から集まった選手たちと切磋琢磨の日々を送っている。 そこへ一人の日本人が訪れる。凛のチームメイトと次々に水泳勝負をして 勝ち続けるスイマーは、意外な人物だった。 その人物とは――、桐嶋夏也。 夏也はミハイルにコーチを頼むためチームを訪れたが、 ミハイルはコーチを引き受けようとしない。 目的は果たせなかったものの、夏也は凛と出会い親しくなった。 二人は夜の街でお互いが遙の知り合いであることや、 過去に郁弥と遙の間に起こった出来事を話す。 郁弥のことを話す夏也の横顔に、凛は父の面影を感じる。 「夏也さんは、自分の夢を…」―― 凛がそう言いかけた瞬間、夏也はおもむろにフリーで勝負をしないかと持ちかける。 凛とも互角に張り合う夏也。だが、途中で雷雨に見舞われ勝敗はあえなく持ち越しに。 凛と過ごすうちに友達に会いたくなった夏也は、そのまま日本へと旅立った。 一方、遙は郁弥に会うために、霜狼学院大学を訪れていた――。
郁弥と話をするため霜狼学院大学を訪れた遙たち。 構内を探し回るも郁弥の姿は見当たらない。 遙たちが大学に来ていることに気づいた日和は、彼らを郁弥に会わせまいと動き出す。 日和は遙たちに自主練習の後にして欲しいと伝える。 だが、郁弥は体調を崩し練習を早退していた。 練習後に一人で現れた日和は郁弥が水泳に集中できなくなることを危惧して、 遙たちに「郁弥の友達でいる資格」を問う。水泳で勝負をしないか、と。 日和の専門種目はバック。その勝負に名乗りを上げたのは、真琴だった。 レースは真琴が日和の泳ぎに迫るも、わずかに及ばない。 勝利した日和は、郁弥がアメリカ留学中の不幸な出来事を明かす。 そして、遙に辛辣な言葉を投げかけた。 「君と泳ぐとみんな不幸になるよね」――と。
岩鳶高校水泳部は、鮫柄学園、湊風館高校との 合同練習のため合宿施設へやって来た。宗介もOBとして参加する。 活気あふれる空気の中、ロミオの泳ぎに違和感を覚える怜と渚。 心配する怜たちに、静流はロミオの中学時代の出来事を話し始める。 中学最後の大会でフライングをしてしまったロミオは、 大勢の前でのスタートに恐怖心を抱くようになってしまった。 ロミオの様子を見ていた宗介はいち早く問題に気づく。 その宗介もまた、ある決断を胸中に抱え、悩んでいた。 合宿最終日に行うことになった各校対決のメドレーリレー。 出場を諦めようとするロミオに、 怜と渚はリレーによって受け継がれてきた岩鳶の絆について語り、勇気づける。 怜たちの言葉を受け出場を決意するロミオ。 ロミオ、静流、渚、怜、初めてのメドレーリレーは新たな絆を生んだ。 その姿を見ていた宗介はひとつの決意を固めた。 一方、真琴は水泳教室のアルバイトを始めていた。 そこに現れたのは思いがけない人物で――。
初めてふれた郁弥の笑顔を、今でも覚えている。 留学先のアメリカで、二人はともに練習に励み強くなってきた。 そんな郁弥の調子を乱す遙の存在…。 日和は郁弥に遙のことを忘れて欲しかった。 新人戦以降、郁弥は調子を崩し、それはタイムにも顕著にあらわれた。 アメリカ留学中、遙の不在を痛感した郁弥は、 あの日から仲間を求めず一人で強くなろうと決めた。 しかし、遙と再会したことで捨てたはずの気持ちに戸惑い始めていた。 過去に囚われ泳ぎに集中できていない郁弥に、もどかしさを募らせる日和。 日和は郁弥に遙のことについて苦言を呈する。 しかし、郁弥は「日和には関係ない」と言い放つ。 これまで郁弥を誰よりも側で支えてきた日和にとって、それは何よりもつらい一言だった――。
大学選手権が近づき、選手たちは部活動以外でも各々のトレーニングに取り組んでいる。 遙も区民プールで自主練習に励んでいた。遙を指導していたのは、あの謎の男。 その様子を気にかける真琴だが、彼にコーチを頼んだのは遙だという。 一方、郁弥はますます調子を崩していた。 先日の言い争いで、日和との関係にも溝が生じたまま迎えた大学選手権。 郁弥を支える者は誰もいない。 中学時代、遙、真琴、旭がそれぞれの事情で水泳部を去った後、 郁弥は一人で泳ぎ続け、一人で戦う強さを手に入れた。 強くならなければいけない。一人でもっと強くならなければ……。 自分にそう言い聞かせて泳ぎ続けてきた。 試合前に旭と遭遇し言葉を交わすも、旭の想いは今の郁弥には届かない。 そして、郁弥は孤独を抱えたまま個人メドレーのスターティングブロックに立つ。 その時、隣のレーンに立っていたのは──
中学時代のリレーチーム解散以降、郁弥は誰にも頼らず一人で強くなると決めた。 自分が強くなればチームは必要なくなる。そう信じてきた。 そんな郁弥に「一人じゃない」と語りかけてきたのは、郁弥が憧れ続けてきた遙だった。 これまでフリーにこだわり続けてきた遙が、個人メドレーで試合に出場する。 全ては過去に置き去りにしてきた郁弥を救うため。 郁弥は水の中で遙が泳ぐ音を聴く。何にも囚われない、あの頃と同じ遙の泳ぎ。 その姿を感じて郁弥の心は解き放たれた。 遙と泳いだことで本来の泳ぎを取り戻した郁弥は、 星川からフリーリレーへの出場を持ちかけられる。そこで郁弥は一つの頼み事をする。 ──「日和も一緒に泳がせてください」。 試合が終わり、日和は心からの笑顔を見せた。 それを見た郁弥は幼い頃に同じ笑顔と出会っていたことを思い出す。 日和は穏やかに笑ってこう伝えた。「その子にとって、郁弥はヒーローだったんだよ」。
遙が次に挑む戦いは全日本選抜。 この試合で世界大会に出場する代表選手が決定する。 遙は、全日本選抜に向けて、選ばれた選手だけが参加できる強化合宿に招集されていた。 清十郎の妹・五十鈴は、街中で一人の外国人と遭遇する。 ──「あいつどこかで見たことあるような……」。 合宿の昼食時間、遙が食堂に行くと一人の外国人が食券を買えずに困っていた。 声をかけた遙は、言葉が通じないながらも不思議な交流を果たす。 彼は魅惑的な微笑みを浮かべ遙に囁く。 「君は水に気に入られている」 一方、凛もミハイルからある外国人の噂を耳にしていた。 今、フリーの世界記録保持者・アルベルト・ヴォーランデルが来日しているという。 遙が出会った外国人は合宿最終日に行われる親善試合に姿を現した。 鳴り響くスターター。親善試合の応援に駆け付けた真琴が目にしていたのは、 アルベルト・ヴォ―ランデルに惨敗する遙の姿だった。
親善試合後、真琴は遙と連絡が取れずにいた。 頭に浮かぶのは、かつて水の中で立ち止まってしまった遙の姿。 そんな時、遙の噂を耳にしたという尚が真琴のもとを訪れるのだが──。 真琴は、遙のために何ができるか、ずっと考えていた。尚にその思いを相談する真琴。 話を聞いた尚は、水泳にはいろいろな形の関わり方があることを伝える。 「真琴は、選手に寄り添って助けるようなことが向いている。例えば、トレーナーとか。」 東京に来ていた凛と会った真琴は、遙の近況を伝える。 事情を理解した凛は急遽、真琴と共に遙の合宿所へと向かう。 そこで二人が目にしたのは、がむしゃらに泳ぐ遙の姿だった。 東のコーチを受ける遙。しかし、気が立ってしまっているのか、どうにも東の言葉が浸透していない様子。見かねた真琴が東の言葉を代弁する。すると、遙は東の言わんとすることを理解し、耳を傾けるようになった。 戦おうとする遙、凛の思い、これまで見てきた仲間たち。 そして、今まさに戦いに臨もうとする教え子の姿。真琴の中に、新たな決意が固まる。 ──「尚先輩。この間のトレーナーの話、詳しく聞かせてもらえませんか。」
全国大会出場を果たした渚と怜は岩鳶高校水泳部一同と共に会場のある東京を訪れる。 真琴と合流した一同は、遙が応援に来られないことに寂しさを拭いきれずにいた。 怜はそんな皆を励ますように意気込むが……。 初めて個人で挑む全国大会。緊張の高まる怜は、まさに心ここにあらず、という状態だった。 怜を心配する渚。そんな中、ある奇跡的な出会いが怜の緊張を解きほぐす。 「信じて、ぶつかれ!!」 ──旭と小学生以来の再会を果たした怜。 考えすぎていた怜の心に旭の真っすぐな言葉が力強く響く。 強張っていた怜の表情は、いつの間にか笑顔に変わっていた。 スターティングブロックに臨む怜。 すると、観客席から自分の名前が呼ばれていることに気づく。 振り返ると、真剣な眼差しで微笑む遙の姿がそこにあった。 「僕の渾身のバッタをごらんにいれようじゃありませんか!」 ──渚や高校の仲間たち、旭、真琴、そして、遙。 それぞれの絆に背を押され、怜は本来の自分を取り戻した。その怜の姿は渚にも届く。 二人は全身全霊を尽くして高校最後の夏を泳ぎ切る。