人々の活気とどこか懐かしい空気に溢れる街・九龍城砦で鯨井令子は、不動産会社 “旺来地産” に勤めている。先輩の工藤発は遅刻の常習犯にして何事にも大雑把な性格だが、九龍の街をこよなく愛している。 ある日、九龍から懐かしさは特に感じないと言う令子に、その魅力を伝えるため街に連れ出した工藤。最後にたどり着いた「金魚茶館」という工藤行きつけの不思議な喫茶店で、令子は店員のグエンに工藤の恋人と間違われる。
南橙街に住む楊明と友人となった令子は、工藤が持っていた1枚の写真についていま抱えてる思いを楊明に打ち明ける。令子と同じ顔をした女性と工藤が写る、婚約記念と書かれた写真の謎。 過去の記憶が一切ない令子自身について。そして、いま自分が工藤に恋をしていること――。 そんな中、九龍に大企業・蛇沼製薬が運営する蛇沼総合メディカルが大々的にオープンした。令子と楊明、友人の小黒は3人で美容と健康のため無料カウンセリングを受診しに出かける。
令子が買った金魚鉢を自宅に届けた工藤は、令子の部屋にかつての恋人の面影を感じる。消えた喫茶店・金魚茶館の店員・グエンを探し続けている工藤だが、形跡さえ見つけられない。 その頃、怪しい仮面の男が九龍の街を徘徊し、令子に接触していた。仮面の男から、今の自分とは別に「鯨井B」が過去に存在していたと知らされる令子。自分のクセや恋心すら鯨井Bからの借り物かもしれないという事実に、令子は思い悩む。
香港で一躍有名人となっている、蛇沼製薬社長であり蛇沼総合メディカル院長でもある蛇沼みゆきは、グエンと共に変装姿で九龍を探索していた。現在の九龍と鯨井令子の存在に違和感を感じている蛇沼とグエンは、令子の近くにいる工藤にも興味を持ち始める。一方、令子は工藤や楊明と一緒に、小黒の引っ越しパーティを楽しんでいた。その晩、屋上でタバコを吸いながら工藤は令子に空に浮かぶジェネリックテラが輝く理由を尋ねる。
「鯨井令⼦は俺が殺した」という⼯藤の⾔葉が忘れられず、鯨井Bの過去とその⼈物を知ろうとする令⼦だったが、楊明はそんな令⼦に不満を抱く。そんな中、九⿓の映画館で古い映画「胡蝶の夢」がリバイバル上映される。主演⼥優の美しさに興奮する令⼦に、楊明 はいつにない表情を⾒せ、距離を置く。思わず⾃⾝の過去を突き付けられ、現在の⾃分⾃⾝を⾒失う楊明。過去を持たず、⾃分の⼈⽣を奪われる感覚がわからない令⼦だが、それでも楊明のもとへ急ぐ。
蛇沼に別れを告げられ、その日暮らしの生活を再開したグエンだったが、早々に楊明と令子に見つかり、令子が抱いている疑問について問いただされる。グエンによると現在の九龍にいる人間はだれしも2人存在するが、クローンではなく別々の存在だという。一方蛇沼は、九龍について香港で調査をしている幼なじみのユウロンと会っていた。死んだ人間も壊されたはずの城塞も再現されながら、見える人間が限られている現在の九龍に、蛇沼はさらに惹かれていく。
九龍を彷徨い歩き、グエンと出会って3年前の出来事を思い出すうちに、ダンスクラブで気を失っていた蛇沼。 不動産屋としてやってきた令子と再会したことを機に、2人で話す時間を作る。今の自分は鯨井Bとは別の人間であり、絶対の私として生きていくと語る令子。そんな令子を蛇沼は「後発的な存在」だと言う。楊明にもその話を打ち明ける令子だが…。
ユウロンの調べで、鯨井Bは3年前に薬の過剰摂取で亡くなっていたと知った蛇沼。自らが取り壊した第二九龍にかつて住んでいた彼女に、蛇沼は因縁を感じる。時を同じくして、令子は自分のことが見ることができない人間がいると知りショックを隠せずにいた。自身の存在そのものが大きく揺らぐ中、工藤の「何処へも行かないと約束する」という言葉に生きる道を見出す。そして、九龍についての調査するため香港に向かった楊明は、ネット上で現在の九龍について知る人物と接触する。
香港での調査結果を九龍に持ち帰った楊明。その内容を令子とグエンに話すのだが、再び九龍に取り込まれていき…。一方その頃、小黒と呼ばれる青年が火災報知器の点検業者として令子や楊明の周辺に出没していた。蛇沼の父の命令で九龍を調査していた小黒(青年)は、令子たちが住む九龍を「ジェネリック九龍」と報告する。
部屋に残されていたメガネをかけると、奇妙な風景が断片的に見えると気づいた令子。鯨井Bの記憶の手がかりになると考え、楊明と共にメガネが映した九龍北エリアを訪れる。鯨井Bとジェネリック九龍の秘密に大きく近づきつつある二人だが、壁のお札通じて龍からの警告が届く...。そしてグエンは、旧知の仲であるらしい小黑(⻘年)との再会を驚きながらも喜ぶ。そしてその再会により、グエンもさらなる九龍の謎に足を踏み入れるのだった。
小黒と小黒(青年)が同一人物と知らないままに令子は、九龍内で2人を会わせていた。自分らしく生きていたかつての自分を見て小黒(青年)は涙ぐむが、その直後に大きな異変が起きてしまい…。その頃、金魚茶館で工藤とようやく再開を果たしたグエン。この九龍についてどこまで知っているのかと問い詰めるグエンだが、工藤はうろたえることなく自身が知っていることを話し始める。それぞれの過去と想いが重なり出し、ジェネリック九龍が生まれた理由が紐解かれていく…。
各々がジェネリック九龍の秘密に迫りつつある中、蛇沼だけは自身の目的を見失い後悔に囚われていた。九龍を調査中のユウロンは、令子がこの九龍の謎を解く手がかりだと考え、令子への接触を図る。ユウロンとの会話により、令子には鯨井Bの死と工藤の過去が突き付けられる。大きく揺らぐ令子だったが、“絶対の自分”であり続けるため、さらに前に進むことを選択していく。
崩壊が始まり、現実と虚構、過去と現在が入り混じる空間と化したジェネリック九龍。記憶の迷宮の中で、工藤を探す令子は“意外な存在”によって導かれていく…。たどり着いた先では、3年前の工藤と鯨井Bのひと夏の思い出、そして繰り返し続けるその夏の記憶が映し出されていた。過去と向き合う工藤、そして“絶対の自分”となって未来を目指す令子…。九龍の最深部で再び二人が出会い、その思いが交錯する時、その恋が…全ての秘密を解き明かす――。