中国残留孤児の陸一心は、文化大革命の中で、日本の特務スパイの容疑をかけられ労働改造所へ送られます。思い出すのは敗戦時の満州(中国の東北部)。7歳の松本勝男(陸一心)は祖父や母を失い、妹のあつ子とも生き別れになります。そして小学校教師の陸徳志に助けられ、息子として育てられました。一方、日本の実父・松本耕次は、復員して製鉄所に勤めながら家族を待ち続け、その後に再婚した妻も亡くしてしまいます。
陸一心は優秀な青年に育ちました。しかし、1966年に文化大革命が始まり、日本のスパイとして無実の罪を着せられます。そして労働改造所に送られダム工事など、過酷な労働が続きます。そうした生活の中での慰めは、親友の袁(えん)力本や大学時代の恋人・丹青との思い出でした。1970年(昭和45)8月、日本にいる実父の松本耕次は、故郷長野の満州開拓団の慰霊祭に参加し、中国残留日本人の肉親捜しの話を聞きました。
数年後、陸一心はさらに奥地に送られ、内モンゴル自治区で羊飼いをしていました。草原で日本からの帰国華僑である黄書海と知り合い、日本語を習います。破傷風にかかった一心を徹夜で看病してくれた巡回医療隊の看護師・江月梅との出会いもありました。一心から自分の境遇を養父母に伝えたいという思いを聞き、江月梅は陸徳志へ手紙を書きます。息子の冤(えん)罪を知った養父は、息子のために北京へ出向きます。
陸一心は砂嵐の中で江月梅と再会しますが、心とは裏腹に月梅の愛を拒んでしまいます。一方、養父の陸徳志は、一心のために苦労をしていました。その時に乗り出してきたのは一心の親友である袁(えん)力本でした。軍に勤める袁力本の奔走によって、1972年5月、一心は突然釈放されます。同年9月、日中共同声明が報じられ、鉄鋼公司に戻った一心は、図書室の整理係となり、翌々年の春、月梅と結婚します。
1977年、中国金属学会考察団が訪日し、最新鋭の鉄鋼プラントが東洋製鉄に発注されました。陸一心は日中共同の製鉄所建設チームの一員として働くことになり、日本の東洋製鉄は一心の実父である松本耕次を派遣します。一心と耕次は、互いに国と会社を背負って、同じ事業に関わることになります。日本人孤児の肉親捜しの話で北京に出てきた養父の陸徳志と、耕次と一心は養父と実の親子とも知らず、万里の長城で出会います。
松本耕次はかつて満州(中国東北部)で消息を絶った妻子の行方を、今でも探し続けていました。1978年(昭和53)、耕次は日本へ帰国した折り、中国で別れた子どもたち、勝男(陸一心)とあつ子が生きていたと聞きます。一方、陸一心は日本出張を命じられ、初めて訪れた日本の箱根で、木曽節を聞き富士山を見ます。中国での孤児捜しに参加した耕次は、勝男とあつ子を覚えている農婦と会いますが、いまの消息は知れません。
その頃、江月梅は、北京に近い農村で、夫の陸一心の妹・あつ子と思われる残留孤児、張玉花を診察します。月梅から「もう命が危ないから、早く会った方が良い」と言われて、一心はその女性のもとへ急ぎました。玉花はやはりあつ子でした。35年ぶりに兄と妹は再会し、月梅の奔走で、あつ子は入院します。一心は見舞いに訪れた時、請われるままに日本語を教えますが、あつ子の容体は急変します。
松本耕次は娘のあつ子の居所を見つけます。しかし村に到着した時、すでに陸一心があつ子をみとった後でした。一心と耕次は驚きながらも、自分たちが父と子であることを理解します。父と息子の再会、そして娘との別れでした。耕次は一心の養父である陸徳志を訪ねます。老いた養父母は、「一心を返せ」と言われるかと心を痛めます。一方、一度目の訪日から、一心についての密告が相次いでいました。
陸一心は松本耕次を許すことができず、日本側の責任者が実父であるという事実に苦しみます。製鉄所建設工事も終盤に来て、一心は配電機の点検のために再び日本に来ます。そして、無断単独外出禁止の規律を犯して、耕次の家を訪ねます。父は小さな社宅に一人寂しく暮らしていました。母の写真や妹たちの位牌(はい)を見せられ、今はなき「家族」を感じる一心でした。ところが、その外出中に一心は機密書類を盗まれてしまいます。
陸一心は日本で機密書類を失った責任を問われ、内モンゴル自治区へ左遷されます。実父・松本耕次は息子の冤(えん)罪を晴らすために、上海事務所長を辞めたいと会社に願い出ますが、願いは届きませんでした。一心を救ったのはかつての恋人・丹青でした。自分の夫が一心を陥れたことを知り、離婚を覚悟で真実を明らかにしたのです。
冤(えん)罪が晴れた陸一心は製鉄所建設現場に復帰し、懸命に働きます。実父の松本耕次もやっと安心しました。1985年11月、完成した高炉に火が入りました。抱き合う父と子。プロジェクト終了後、松本耕次と一心は長江下りの旅に出かけます。その船の中で、耕次は一心に「日本に帰ってきてくれないか」と持ちかけます。一心は「私は大地の子です」と中国にとどまる決意を伝えるのでした。