レコード会社の宣伝部で働く直は、ある夜、美しいピアノの調べに導かれて、会社の屋上まで来る。聴き入る直の目に、涙がにじむ。そんな直にディレクターの浩志が冷ややかな目を向ける。それは無名のピアニスト・ゼノの曲「青の月」。音楽は商品だ、と言いきる直と、音楽は想いだ、と反発する浩志との運命的な出会いだった。 二人を出会わせた「青の月」がいつしか、二人の心を結びつけていく。一年後、直は浩志に誘われて、新しいレコード会社を立ち上げると、ゼノをデビューさせる。
直と浩志が売り出したゼノのアルバム「青の月」が大ヒットする。浩志は直にも謎のピアニスト・ゼノの正体を秘密にする。ある夜、直は浩志から突然、プロポーズされる。浩志を愛しながらも、「今のままなら、結婚できない」と拒絶する直。自分自身のことを語らない浩志…ゼノのことを秘密にする浩志。本当のことを話せない関係では、幸せになれないと…。 浩志はゼノのデビューコンサートを開く決心をする。クリスマス。ゼノのコンサートの日が来る。直は会場で、浩志とゼノの到着を待つが…。
浩志は、親友の博人にだけ、ゼノの正体を教える。その博人に車でコンサート会場まで送ってもらう途中、浩志は交通事故に遭う。病院へ駆けつけた直は、命の瀬戸際をさまよう浩志の姿にショックを受ける。浩志の洋服のポケットには、二人の結婚指輪が…。浩志の病状について、医師が厳しい診断を下すが、直は婚姻届けを提出する。その直後、浩志が帰らぬ人となる。悲しみのあまり、直はマンションの窓から身を投げ出そうと…。
浩志への愛を貫くために、直はゼノを探し出して、浩志の夢を叶える決心をする。そんな矢先、直のレコード会社で、アーティストが次々と引き抜かれ、倒産の危機に陥る。直が辞めたレコード会社の社長・柏木の企みだった。 その頃、浩志と同じ日に事故に遭い、同じ病院に運ばれた意識不明の青年・健に変化が…。
事故で意識不明だった健が、奇蹟的に目を覚ます。「違う…俺は健じゃない。俺は…浩志だ」と呟く健の身体には…。 直はピアニスト・ゼノを探し続けるが、手がかりは見つからない。レコード会社は窮地に陥り、追いつめられた直は、替え玉アーティストのデビューを画策する。直を好きな博人は、真実を話そうとするが、ゼノを生きる支えにする直を見て、何も言えなくなる。 その夜突然、健が直の前に現れる。直は浩志の記憶を持つ見知らぬ青年に驚く…。
最愛の浩志を亡くした直を見知らぬ青年・健が訪ねて来る。浩志の名を語る健は、必死に何かを訴えようとして、意識を失ってしまう。 一命をとりとめた健だが、自分の体に浩志の魂が宿っていることを知られたら、命が消える定めなのを知り、絶望する。記憶喪失のふりをして、健は退院するが…。 そんなとき、健は新聞でゼノの自殺説を知り、驚く。それは、柏木の企みだった。博人はなぜ直にゼノの真実を話さないのか─焦燥感に駆られた健は、再び直のもとを訪れ…。
ゼノの正体が浩志であることは博人しか知らなかった。直のレコード会社の危機を助けたい健は、ゼノは自分だと直に真実を告げる。直は「青の月」を弾いて証明してほしいと健に迫る。怪我が治ったらいくらでも証明できる、と訴える健の真剣な眼差しに、直の心は揺さぶられる。が、その時…。 家族との偽りの生活が健に重くのしかかる。「この体で生き返ったのは地獄だ」、健の中で浩志の魂が悲鳴をあげる。
直はゼノを売り出す段取りを整え、胸を躍らせる。が、博人は、人前で演奏するのは得意ではない、と不安そうな表情だった。 直の行きつけのミツコのピアノバーで、健は博人と会う。この先嘘をつき通す自信と覚悟があるのかと健は博人に迫る。 ゼノのドキュメンタリー番組の撮影が直のマンションで行われる。緊張した面持ちで博人はピアノに向かうがそのとき、浩志の遺影が倒れ、博人は蒼白に…。
ゼノの記事がスポーツ紙を賑わせる。浩志が遺したゼノの夢に没頭する直を見て、ミツコは死んだ男はなかなか忘れられないが、次の恋を始めることを恐れてはいけないとアドバイスする。 バーで、直が替え玉アーティストとトラブルを起こす。「音楽はやっぱりただの商品なのか」と直を非難する健。浩志と運命の出会いをした時と同じフレーズに直は言葉を失う。 健の彼女の仁美が直の会社に訪ねてくる。バーでの直と健のやりとりを見て、二人はどういう関係なのか教えて欲しいと聞く。そんな仁美に、健は本当に記憶喪失なのかと直は逆に尋ねる。
ピアノの練習で遅くなった博人は、そのまま直のマンションに泊まる。翌朝、直のマンションを訪ねた健は、玄関に博人の靴があるのに気がつき、衝撃を受ける。 ミツコは、事故当日に浩志が店に忘れていった時計を直に渡す。その時計をはめると目に涙を浮かべる直。健は、叫びだしたいような気持を必死に堪えた。 ミツコのバーで、ゼノのピアノ演奏が再度撮影される。直前の練習で苦悩する博人に、健がゼノの音に近づけるためのアドバイスをする。博人は憮然とするが、その的確な指摘に、唖然とする。
ある日、健に博人の演奏について「あの音で満足なのか?」と問われ、直は心がざわめく。テレビで演奏を見た柏木も、博人の演奏はCDとは別人だ、と疑いの目を向ける。そんな中、実花が博人のマネージャーになると言い出す。 自分が浩志であることを直に伝えたい…悲しい決意をして、健は直に会いにいくが…。
自分が浩志だと直に信じてもらうのは叶わぬ夢だ、とあきらめる健は、交際していた仁美をデートに誘う。 デート中に健は偶然ゼノのサイン会をする博人を見かけ…。 博人に想いを寄せる実花は、博人の気持ちに気づきながらどう思っているのか、直に尋ねる。 ある日、柏木がゼノに楽曲提供の依頼をしてくる。相手は韓国人ポップスターのパク・ヨンハ。しかし、直は…。
柏木がゼノに楽曲提供の依頼にくる。相手は韓国人ポップスターのパク・ヨンハで、「青の月」を聴いて、とても感動したというのだ。 直は、健に記憶を取り戻すために協力したい、と申し出る。しかし、新しい人生を歩き始めた直に、浩志の記憶など必要ないだろう、と健の態度はよそよそしい。 パクの希望によって、博人が「青の月」をピアノで生演奏する。博人の演奏後、パクは思わぬ感想を口にする。その言葉に、直はハッと衝撃を受ける…。
曲作りに悩む博人が、直のマンションで健に新曲を聴かせ、感想を求める。また、直にも新曲の感想を聞かれた健は、ゼノにこだわるのはやめたらどうか、と答える。浩志のことも忘れたのだろう、とやりきれない気持ちをぶつけるが、その瞬間、直は健の頬を叩く。 その夜、ピアノバーで直が突然倒れ、健は直をマンションまで送り届け…。
高熱で倒れた直の手を強く握る健。愛しさがこみあげて、衝動的に直に唇を寄せる。しかし、直は博人に任せるのが一番だ、健の胸に悲しみがあふれる。 翌日、回復した直が健を訪ねる。健の手を突然握りしめる直は、昨日浩志の手のように感じた、と寂しそうに語る。 一方、練習に励む博人が、ゼノになりきれない絶望の叫び声をあげて…。
ゼノの音が出せない博人は、絶望の叫び声をあげる。それを耳にした実花は衝撃を受け、博人はゼノではないのかと問い詰める。 健がピアノバーを辞めることを知った直は、うちのレコード会社で働いてみないか、と声をかける。浩志の夢、ゼノは絶対に潰せない─と一途に思いつめる直のために、健はある行動に出る。
正体不明の相手から届けられたゼノの新曲が入ったCDに博人の心はかき乱される。狂気を帯びる博人を実花が心配する中、博人は新曲のCDを直に差し出す。 ガールフレンドの仁美の存在が重荷になった健は、しばらく会うのをやめよう、と仁美に告げる。 直の犠牲になってまで助けようとする博人に嫉妬した実花は…。
博人は、見舞いに来た直に自分がゼノでないことを詫び、頭を下げる。博人が打ち明ける事故の日の真実に、直の心は砕け散る。 そんな直を健は慰めにやってくる。健は、これまで言えなかった浩志の想いを直に必死に伝えようとする。そして、新しい夢を探してほしいと願うが…。
ゼノの夢が壊れ、生きる気力をなくした直は、自殺を図ろうと…。駆けつけた健は、愛を告白し、ピアノに向かう。その音に、目を見張る直。「あなた、浩志なのね…」と、直は健の背中にしがみつく。 自分は浩志だ─と答えようとした健の胸に 激痛が走る。それでも、互いに求め合う直と健は…。
健は直のマンションで暮らし始める。健のピアノを聞く度に浩志を思い出す直を見て、直を幸せにするには林田健として直に愛されるしかない…と健はピアノをやめる決意をする。 ミツコの店で、健は一人、最後のピアノ演奏をする。その調べを偶然、耳にした柏木は衝撃を受け、自分のレコード会社からデビューしないかと健を誘うが…。
直が結婚指輪を外す。直は浩志を忘れる…それは健として望んだことだが、浩志の心が健の体に嫉妬するのか、健の心が揺れる。一方、直も指輪を外したことで、浩志への罪悪感に苦しむ。 その夜、ゼノの曲を弾かせてほしい、と健が直にきりだす。自分のピアノで直の借金を返したい、というが…。
浩志の母・多恵が直を心配して訪ねてくる。健の中に浩志を感じるという直に、浩志のことは忘れて、新しい恋を見つけて、と多恵は語る。一方、健を返してほしい、と江利子が直に懇願する。 多恵と初対面のように話す健に、浩志と健はやはり違うのだ、と直は思い知らされる。直は健に、柏木と契約するよう言い渡す。浩志のいない寂しさを健で埋めようとしただけ、と直は冷酷な仮面をかぶる。
直に裏切られた健は柏木と契約。直の会社は柏木に買収されて、健が所属するクラシックの子会社として再生する。そして、柏木の企みによって、直がその子会社の社長となり、健をピアニストとして成功させるよう命じられる。 愛を失った健は、どこにも居場所がなかった。真実を言えば楽になるが、自分で自分を殺すことは…。
健のピアノ演奏を聴いた博人は、強い衝撃を受ける。それは確かに、浩志の音だった。 直は健に見せつけるように、柏木と大人の関係であるかのような芝居をする。それでも、直を愛さずにはいられない健。互いに愛し合うのは運命で奇蹟だから…と健は情熱のすべてを直にぶつける。そのとき、電話が鳴り…。
直が健と一緒に生きることを決意した矢先、浩志の母・多恵が脳内出血で倒れ、意識不明になる。 直は病院に駆けつけるが、多恵が倒れたのは直のせいだ、と実花に責められる。 多恵の病気を知った健は、自分が浩志だと多恵に伝えたい衝動にかられる。ある夜、健は多恵の病室を訪ねる。胸がいっぱいになった健は…。
母の日が近づいた夜、健は多恵の病室にこっそりバラの花を届ける。浩志にとって母の日にプレゼントするのはカーネーションではなく、多恵の好きなバラだった。 生きる気力を失う多恵を元気づけたい直の提案で、健が浩志の曲「赤の月」を多恵の前で演奏することになる…。
多恵のために、健は思いをこめて「赤の月」をピアノで弾く。涙を流しながら演奏を聴いていた多恵は、健を浩志だと信じ込むと、突然意識を失う。 翌日、健は仁美と母の日のお祝いをする予定だった。そこへ健に浩志のフリをしてほしいと直が訪ねてくる。
多恵が危篤になる。健に手を握られて、多恵は穏やかに息を引きとる。多恵に自分の真実を言えばよかった─健は後悔の涙にくれる。 直は多恵の墓参りに行く。すると、健が多恵の墓の前で懺悔していた。
多恵の墓に懺悔する健の言葉を聞いた直は、健が浩志だと確信する。 そんな中、直はある決意をして、柏木を好きになったことを告げる。さらに、20歳の健とは幸せになれる訳がないときっぱり言い渡し…。
柏木を好きになった、という直の言葉を信じられない健は、柏木の企みではないかと疑うが、直を本気で愛し始めている、と柏木は告白する。 ある夜、健は直のマンションにいる柏木を見て、嫉妬にかられる。健は無理やり抱きしめるが、直は激しく抵抗して…。健のレコーディングが近づいたある日、直は柏木からプロポーズされる。
レコーディングの日、健は完璧な演奏をし、直に想いを訴えるが、直の柏木と生きる決心は変わらない。 直は多恵の治療費を柏木に借りている…、と博人は健に伝える。路地の階段で、健と柏木が鉢合わせ、金で直を奪ったのか、と健は柏木に軽蔑のまなざしを向ける。柏木の挑発的な態度に逆上した健は、思わず柏木に殴りかかるが…。
階段の上で争う健と柏木が転落。頭を強打した健は、意識不明で病院へ運ばれる。「目を覚まして、浩志…」、眠り続ける健に、直は訴えかける 。そうでなければ自分が健と離れた意味がないと…。 ある日、直が健の見舞いにいくと…。浩志は完全に死んでしまったのか…愛する人を失う苦しみを二度も味わった直は、慟哭する。
退院した健が、直のマンションに訪ねてくる。柏木に呼ばれたというが、何も聞いていない直は当惑する。そこへ、柏木が帰ってくる。健に証人を頼み、柏木は記入済みの婚姻届を 直に渡す。少し考えさせてほしい、と答える直。二人の幸せを願い、健は部屋を出る。その夜、覚悟を決めた直は…。
直は柏木と入籍したことを健に告げる。健は愕然とする。暗い衝動に突き動かされた健は、仁美と強引に関係を結ぶ。 直と柏木の結婚が周囲に衝撃をもたらす。柏木とは深い馴染みのミツコは激しく動揺して…。そんな矢先、柏木が突然、社長を解任される。
直が柏木と結婚してまもなく、柏木が背任容疑で逮捕される。直は柏木の妻として気丈にふるまうが柏木は婚姻届を提出していなかった。直にも困難がふりかかるのではないか、と心配する健。 保釈請求が受理されて、柏木が直のマンションに戻ってくる。柏木は婚姻届を出さなかった理由を直に語ると、別れをきりだす。そこへミツコが現れ…。
ピアノを弾かせてほしい、と健が突然、直に頼みにくる。 博人は直に、今度こそ受け取ってほしいと五千万円の小切手をさしだす。健の音をより多くの人に知ってもらいたい、と援助の手をさしのべようとする。 ある夜、直の態度に健は動揺する—自分に記憶があることに気づいているのではないか…。
直が自分の愛を拒絶するのは、自分の命を守るためなのか?─健は直が自分に起きた奇蹟とその掟に気づいているのではないか、と考えこむ。 健は直に、自分も嘘の決着をつけることを約束する。そして、直の誕生日に答えを出して、戻ってくると…。
体調の悪かった実花が倒れる。妊娠三ヵ月というので、驚く直。博人の子だったが、彼には言わないでほしい、と実花は訴える。 健が仁美の両親に挨拶にいく日、仁美は健の大切にしている時計のことで、健と口論になる。取り乱した仁美は自殺を図ろうとしたあげく…。
12月、多恵の墓の前で、直と健が顔を合わせる。健は一年後、ここで会おうと誓う。 クリスマスの夜、健のコンサートが開催される。全身全霊で演奏するその姿が、直にだけ浩志が演奏しているように見えていた。演奏を終えると健は、観客の前で思わぬ告白を始め…。
自分は堤浩志だ、と健がコンサートで告白。直に愛の言葉を残して意識を失う。浩志はこの世からもう消えた…自分を浩志だと認めたから…病室で昏睡する健を、直は呆然と見つめる。もう一度奇蹟を起こして─直は祈るように健の顔を見つめるが…。
1月30日、その夜は二回目の満月、幸運を呼ぶブルームーンの夜だった。会社も廃業になり、生きる目的を失った直は、青の月に語りかける。浩志に会わせて。浩志の元に行かせて…お願い…お願い…。そのとき、直を呼ぶ声が…。