両親が別れることになり、純と蛍の二人は父親の五郎に連れられ、昔父親が住んでいたという北海道の富良野というところへ行くことになった。蛍は、車窓から初めて見る空知川に感動していたが、純は不安気に窓の外を見つめていた。3人が降りたのは、布部という駅であった。そこには、親戚の北村草太が車で出迎えにきてくれていた。そのあと、五郎たちは草太の車で、八幡丘にある草太の家へ向かった。その夜は、草太の家で三人で泊まった。 翌日、二人は昔五郎の住んでいたというぼろぼろの廃屋へ連れて行かれた。ここには電気もガスも水道もないと聞かされ、純は不満と動揺が隠せなかった。その夜、食事のときに、五郎から馬の賢さの話を聞かされ、蛍は感動するが、純は詐欺だと思った。純は、その夜、怖い夢にうなされていたが、蛍に起こされ、何者かが表を歩いていることを知らされる。そして、恐怖の余り、二人はお祈りを始めた。正体は、中畑和夫に言われて様子を見に来たクマさんだった。翌朝、五郎は蛍と二人で沢へ水くみに行った。そこで今の蛍の気持ちと純の様子を聞き、少し安堵する。しかし、そのころ純は二階の部屋で起きており、一人東京へ逃げ出す作戦を考えていたのだった。
あれから五日が過ぎ、純の不満はどんどん増すばかりであった。おかむろづくりのためにネコで石運びをすることになる。蛍はよく働いていたが、純は怠けてばかりであった。(草刈りの時に、クマさんが言った、「こつこつ働いていれば、人間はだんだん謙虚になる。」の一言に「なるほど」と思ったのは私だけだろうか。) その夜、蛍が五郎に純が母親に手紙を書いていることを告げ口するが、純が蛍のことを信用して話したのだから、その秘密を漏らすようなことはしてはいけないと言われる。 翌日、五郎は純と蛍のことを頼みに中の沢の分校へ行った。しかし、先生は即答を避けた。五郎は、学校に近い北村清吉の家へ寄った。すると、そこに東京から令子の妹の雪子が来ていた。そのころ、家では純が蛍に母への手紙を町へ出しに行くように頼んでいた。はじめは、いやだと断っていたが、引き受けてしまう。 町へ行く途中、橋の下に、綺麗な花を見つけた蛍は、橋の欄干の上に手紙を置いて、川へ降りていった。そのとき、橋の上を車が通り過ぎ、置いてあった手紙が川に落ちてしまった。蛍はそれを追いかけていったきり、夜の7時を過ぎでも戻ってこなかった。純は、初めはとぼけていたが、自分が令子への手紙を出してくるように頼んだことを五郎に話した。夜遅く、蛍は無事に発見された。蛍は、手紙のことは誰にも言っていないからと純に話した。それを聞いた純は、心の奥にあついものを感じていた。
ある日、純は雪子に東京へ帰りたいと打ち明ける。その夜、五郎は純に直接父さんに言わずに、雪子おばさんを通じて言ってもらうようなやり方は卑怯だと言う。 五郎は、清吉の家から東京の令子へ電話し、純を東京に戻すことを伝える。それから三日がたち、純と雪子は五郎と蛍に見送られながら麓郷を後にし、北村清吉の車で布部の駅まで送ってもらう。そこで、清吉から「敗けて逃げていくんじゃ。」という言葉を聞かされる。電車にゆられながら、純はさっき清吉の言った言葉が頭から離れず、ついに決意をひるがえして麓郷に戻ってきてしまう。
純と蛍が中の沢の分校に通うようになったある日、中畑木材へ五郎を訪ねて本多という女弁護士が東京からやって来た。五郎は、本多から母親の令子からの手紙が子供に全部渡っているかどうか聞かれるが、五郎は嘘を言ってしまう。 純と蛍は学校から帰る途中に、弁護士の本多から母親からの何通かの手紙が自分たちにきていたことを聞き、純はショックを受ける。五郎が仕事を終えて、家に着くと純が令子からの手紙のことで雪子に不満をぶちまけているのを聞いてしまう。五郎は、本多から受け取った手紙を純に渡し、明日本多のいるホテルへ連れて行くことを伝えた。 翌日、五郎は純だけを車に乗せ、本多の待つホテルへ連れて行った。部屋へ入って話しをしていると、本多が吸っているたばこの灰のことが純には気になった。それは、昔五郎が灰を落として令子に叱られていたことや夜中に令子が誰かと電話で話をしていて、そのとき吸っていたたばこの灰がじゅうたんに落ちたことがあったからだった。本多は、部屋から東京の令子の所へ電話をかけだした。純は自分とは関係のない人が父親のことを悪く言うことに我慢ならず、受話器の向こうには母親が出ているにも関わらずホテルを飛び出し、五郎の待つ車へと走った。
純は、あれ以来五郎の自分に対する態度と蛍に対する態度が違うことにひがみを感じるようになる。翌日、五郎は山仕事に出かけ、笠松の杵次から五郎たちが住んでいる土地は自分のものだと聞かされる。その夜、学校のテストの点のことで純が蛍を馬鹿にするが、五郎は静かにするように注意する。五郎は、杵次の言葉が気になっていた。 次の日、純と雪子は草太の車で町へ買い物に行く。草太はボクシングの練習の後、純を喫茶店に誘い、雪子の気持ちを聞き出そうとするが、純はへなまずるく応対する。五郎は、杵次に土地のことについて詳しい話を聞く。家に帰ると、かんびが片付けてないで、てっきり純の仕業だと勘違いし、純を叱るが、それは雪子が出しっぱなしにしたものだった。純はその夜、雪子に自分が五郎に嫌われていると話す。 次の日、杵次は仕事場には来なかった。純が、がんびで火をつけようと練習しているところへ杵次がやってきた。その夜、久しぶりに五郎の家は賑やかだった。そこへ、つららが訪ねてきて、純に草太を呼ぶように伝えるが草太は相手にしなかった。純は、五郎が杵次の悪口を言ったときに怒ったくせに、今は自分が悪口を言っていることに矛盾を感じ、また、草太に相手にしてもらえないつららも自分と同じで嫌われていると感じ、一人外へ出る。そんなとき、蛍のかわいがっているキツネが現れ、石を投げつけて逃がしてしまう。五郎は怒り、純を殴った。草太は純を追いかけ、自分の車の中で諭す。純は、そんな草太が優しく男らしく思えた。蛍のキツネは、このことがあってから現れなくなってしまった。
ある日、雪子がマフラーを編んでいた。純や蛍は、それが草太へのクリスマスプレゼントだと勘違いする。ところが、蛍から口止めされていたが、おしゃべりの純はそのことを草太に話してしまった。草太はそれを聞いて舞い上がり、不眠症になってしまう。ところが、雪子の編んでいたマフラーには草太のイニシャルのS.KではなくT.Iと編み込まれていた。それは、以前東京で雪子がつき合っていた井関という人へのプレゼントだったのだ。純は、草太にしゃべってしまったことを後悔していた。 そんなとき、つららが雪子のところへ草太のことで話をしにやって来た。純は二階でその話を聞きながら、雪子のいつもとは違うきつい一面を知る。五郎は北村の清吉から草太が雪子に惚れていることを知らされる。家に帰えると雪子が突然、しばらく東京へ戻りたいと言ってきた。雪子は、純と蛍に見送られ、バスで麓郷をあとにする。その夜、何も知らない草太が家にやってきたが、五郎から雪子が東京に戻ったことを聞きショックを受ける。
12月も半ばを過ぎ、純も蛍も雪はねの毎日であった。雪子が東京へ帰ってからは、五郎が山仕事に行っている間、中畑和夫の家に世話になっていた。純は、そこにある電話が気になりだしていた。ある日、中畑の家で一人になったとき、東京の令子のところへ電話をかけ、令子の声を聞くが、何もしゃべらずに切ってしまった。 山仕事が終わり、中畑木材の広間で慰労会が行われた。純は密かに部屋を出て、事務所の電話で東京の令子へ電話をかけ、次は蛍にも話をさせようと考えた。クリスマスの準備で中畑家にいるとき、純は蛍と二人っきりになった時を見計らって、令子のところへ電話をかけ、蛍を電話口に出すが蛍は令子の声を聞くと切ってしまう。そのときから、蛍は口をあまり聞かなくなった。終業式の日、五郎は凉子先生から蛍が学校から東京の令子のところへ電話をかけていたことを知らされ驚く。 その夜、純と蛍はクリスマスを中畑の家で過ごそうとするが、中畑のおじさんは、純と蛍に家に帰るように言う。純は不満だったが、クリスマスは各自が家でやるものだと言われ、しぶしぶ車で家まで送ってもらう。車を降りた純に、中畑のおじさんが純の日頃の態度について叱責する。家にはいると五郎はおらず、壁に靴下を履いた二組のスキーが立て掛けてあった。それは、五郎からのクリスマスプレゼントだった。 その晩、ストーブの側で三人枕を並べて寝るが、突然蛍が学校から令子へ電話したことを五郎に告白したので、純は驚く。自分も言おうと思ったが言うタイミングを逸してしまう。純は、その夜夢を見た。それは、賛美歌の行列が森の中から現れ、先頭には五郎と令子と蛍がおり、必死に叫んでも気がつかず、森の中へ消えていってしまう夢だった。純の寝顔には、一筋の涙が流れていた。
12月29日、家から1㎞ほどさかのぼったところから川の水をひく作業の大詰めを迎えていた。しかし、パイプの途中が凍っているらしくなかなか水が出てこなかった。しびれを切らした純は、一人町へ年賀状を出しに出かけ、バス停で母親の帰りを待つ正吉に会い、正吉の家へ行く。そこで、水で薄めた酒を飲みながら二人で盛り上がっていた。純は正吉に紅白を家で一緒に見ないかと誘われる。 その夜、五郎は仲間と小野田で酒を飲んでいたが、草太は中川に雪子のことでからかわれ、殴り合いのけんかを始める。東京へ戻った雪子は、手編みのマフラーを井関に受け取ってもらおうとするが、袋の中身を見ただけで井関は立ち去ってしまう。雪子は傷つき北海道へ帰る。そのころ、草太は毎日布部の駅で雪子の帰りを待っていた。つららは、草太をあきらめ先輩を頼って旭川へ出ることを草太に打ち明ける。草太は、自分の嫁になるよう言い、つららは感激する。 次の日、パイプの凍っている箇所が判明し、ついに水道が完成した。、純と蛍は感動する。その夜、二人がよく働いたごほうびに正吉の家で紅白をみてもいいことを許す。凉子先生を家へ送る途中で、純と蛍は正吉の家で降ろしてもらい正吉の家へ入ろうとするが、正吉が帰ってきた母親と楽しんでいる光景を見て、正吉の家をあとにする。五郎も中畑の家へ入ろうとするが、できずに一人家へ帰り令子に年賀状を書き始めた。五郎は帰ってきた二人を連れて、富良野の町の灯を見に行く。家へ帰ると、雪子が東京から帰ってきていた。純と蛍は大いに喜んだ。そこへ、草太がつららを連れて現れ、雪子を見るなり舞い上がってしまい、そんな草太につららは寂しさを感じる。東京では、令子が一人新しい年を迎えようとしていた。
昭和56年正月、つららが五郎の家にひょっこり現れ、草太と雪子の関係について五郎に尋ねるが、はっきりしたことが五郎には言えなかった。そんなつららの気持ちとはうらはらに、草太は雪子と純・蛍・正吉を連れて大雪へスキーに行っていた。 その頃、富良野の駅に令子が突然やって来た。駅の改札口を出て、タクシーを拾って中畑和夫を訪ねた。令子の来訪に和夫は驚く。五郎を連れてくるから、家で待つように言うが聞き入れず、和夫は令子を車に乗せ、五郎の家へ連れて行く。五郎は、令子の出現に慌てふためく。令子は、二階の純や蛍の部屋へ上り、子供たちに会わせてもらえるように五郎に頼む。五郎は、「母親がどうしても会いたいというのを拒否する権限は自分にはない。ただ、いま子供らに会わせてしまうと、この3か月築いてきたここでの暮らしが崩れてしまう。時期が来たら、必ず会わせる。」と令子に話す。だが、令子に一目でいいからと言われ、明日中畑の車の中から子供たちを見せると約束する。 スキーから帰った蛍が、誰かが来たのではないかと五郎に聞くが、五郎は中畑が来ただけだと嘘を言う。純は紙包みを見つけた。それは、令子が置いていったものだったが、お年玉だと言って純に渡す。変に思った雪子は、外で紙包みを燃やす五郎から令子が来たことを知らされる。その夜、蛍は雪子に令子が来たのではないかと聞く。それは、令子の臭いが蛍のパジャマについていたからだった。 次の日の朝、五郎は初めて子供たちに風力発電のことを話す。そして、外で作業しているところへ、中畑が令子を乗せてやってきた。五郎は、純と蛍に仕事を任せ、車の中の令子に見せた。そこへ、草太が車でやって来て、令子を見つけてしまう、慌てた雪子は草太に駆け寄り、車に誘う。しばらくして中畑は令子を乗せて旭川空港まで送っていった。 20年ぶりに正吉の母親のみどりと再会し、互いの身の上話で盛り上がっていた。そこえ、母親の話を聞いた草太が現れ、母親に会わせなかった五郎をせめるが、逆にみどりから他人が人の心の中まで入り込むものではないと叱責される。夕食の時、五郎はラジオは、令子からの贈り物だと言うが、純も蛍もそれには答えず、風力発電のことでその場を取り繕っていた。
風力発電のバッテリーが届いたとの知らせがあり、五郎に内緒で雪子と純は富良野へ車で出かける。途中、五郎を見かけるが、五郎は気がつかなかった。五郎は、自販機でたばこを買うと笠松のみどりと正吉をバス停で見かける。みどりは、杵次と飼っている馬のことでやり合い、旭川へ帰るところだった。 富良野で部品を受け取った雪子と純は、スキーの写真ができてるかもしれないから八幡丘の草太の家へ寄ってから帰ることにした。八幡丘の坂に入ると雪が強くなり、吹雪になってきた。雪子は、運転を誤り吹き溜まりに突っ込んでしまう。 家では、留守番の蛍がお手玉をしていた。そこへ、笠松の杵次が訪れる。お手玉をしながら、昔の話をし始める。そこへ、五郎が帰ってくる。蛍は、杵次の馬を見に外へ出る。杵次は、北電に頼んで電気が引けるようにしたと五郎に言うが、五郎はそれを断る。杵次は、前の水道のこともあり、憤慨する。「昔は、懐かしがるだけのもんでない。二度としたくない昔だってある。お前は、まちごうとる。今に後悔する。」と言って帰る。 その頃、雪子と純は吹き溜まりからの脱出を試みるが、雪はどんどん積もっていった。五郎は、帰ってこない二人を心配し、辰巳の家へ電話を借りに行く。富良野の電気屋へ電話し、午後1時頃出たことがわかったが、その後の消息が分からなかった。草太の家へも電話をするが、停電で牛舎が忙しく一方的に切られてしまう。五郎は、中畑からジープを借り、麓郷街道を探す。途中、すれ違った車に聞くが、車はなかったとのことだった。五郎は、笠松の杵次を訪ね、馬そりを貸してもらいたいと言う。雪子と純は疲れと寒さで、車内で眠ってしまう。純は、家族四人お花畑ではしゃいでいる夢を見ていた。突然雪子に起こされ、馬そりの鈴の音を耳にする。二人は馬のおかげで奇跡的に助け出された。
中畑の家では、今回の停電のことが話題になっていた。そこへ、雪子と純の事件については何も知らない草太が入ってくるが、話についていけなかった。驚いた草太は、雪子に会いに五郎の家へ行く。雪子は、風邪を引いてせき込んでいた。純は、部屋におれず、外に出ると蛍がいなくなっていたキツネが来ていると知らせに来た。 五郎は、杵次の家へ酒とお金をもって礼に訪れる。杵次は、酒は受け取るが、「金を積むなら10万は入れてこい。おらは、二人の命を救ったんだ。」と言って、金は受け取らなかった。雪子は、草太の牧場で働き始める。純は、草太と雪子のことでつららから追い回されるようになる。純は、正吉に呼び止められ、命を助けてやったのに、杵次の悪口を言っていると言われ、一方的に殴られ川に落とされる。そして、正吉たちから雪子が五郎の女だと言われ傷つく。 川島竹次が草太の牧場へ現れ、今夜会いたいと伝える。その夜、草太は竹次からつららのことを聞かされる。草太は、つららの待つ「くるみ割り」へ行き、窓際に座っているつららを外からしばらく見つめ、そのままバイクで立ち去ってしまう。竹次は、草太と会ったその足で五郎の家へ行き、雪子に風邪薬を渡す。そこへ、蛍がキツネが来ていると知らせに入ってくる。純は、草太に喧嘩の仕方を教えてほしいと頼む。草太が訳を聞くと五郎と雪子の噂のことだという。草太の立ち会いで、純は正吉は喧嘩を挑む。 草太は、清吉からつららのことで話があると言われるが、聞こうとしない。自分は、どこへも行かず、この家に居てやっているのだと清吉に言う。むしゃくしゃした草太は、町へ飲みに出かけ、客に雪子のことで馬鹿にされ、喧嘩をしてしまう。警察での取調中、つららに捜索願が出されたことを知らされる。つららを探しに行っていた辰巳が、車を返しに五郎の家に来たとき、草太が居るのを見つけ殴りかかる。純は、雪子につららが家出したことを告げるが、雪子は頭痛だと言って寝込んでいた。 その夜、キツネの悲鳴が聞こえ、外へ飛び出した蛍は、キツネがとらばさみを引きずっているのを目撃し、ショックを受ける。
つららが家出をして二日たち、蛍がキツネの餌を雪の上にまいているとクマさんがとらばさみを持って現れた。蛍のキツネはこれと同じ罠にかかったらしい。 1月20日学校が始まり、外で動物の足跡について勉強していた。そこで、正吉は蛍のキツネがとらばさみにやられたことを知る。その罠は、自分の爺ちゃんが仕掛けたものであることを知り、凉子先生に相談する。そして、もう二度ととらばさみを仕掛けないように杵次に願い出た。その頃、五郎の家では、みんなでバターづくりに夢中になっていた。その夜、雪子は五郎につららが旭川にいるようだと話す。草太が、旭川に探しに行っていたのだった。 次の日、学校が終わると純と蛍は凉子先生に呼び止められる。凉子先生から、昔からここでは狩りをして生活してきた人たちがいることを知らされるが、純は納得できずにいた。家へ帰ると待ちに待った風力発電が完成し、家の中が明るく照らされ、二人は感動していた。 草太の牧場では、雪子が清吉からここでの仕事を辞めてもらいたいと言われ傷つく。家に帰ると、いきなり電灯がつき、五郎たちが誕生日のパーティーをひらいて待ってくれていた。 パーティーの途中で薪を取りに外へ出ると、笠松の杵次が立っていた。杵次は、蛍にキツネを罠にかけたのは自分だと謝り、正吉を恨まないでほしいと言って立ち去っていった。 そして、2月が過ぎ、もうすぐそこに春が来ていた。
突然、母親の令子が倒れ、純と雪子は東京へ向かった。病院へ着くと、令子が笑顔で迎えてくれ、純は安心する。雪子は、付き添いの人から令子の様子を聞き不安になり、友人のみや子に相談するため外出をする。純は、恵子ちゃんに電話をするが、英語塾へ行っていると聞き、塾へ出向く。東京にいたときの友達が英語をしゃべっていることにショックを受ける。 次の日、学校帰りの恵子ちゃんを道で待ち伏せ、久しぶりに話ができた。そのあと、豊君の家にみんなで集まったが、みんなの話に入っていけず、純は傷つく。みんなと別れて、病院へ行くと雪子が令子に病院を変わるように説得をしていた。そこへ、男が花束をもって入ってきた。純は、令子から吉野を高校時代の友人として紹介される。純は、自分の母親を「令子」と呼び捨てにする吉野が気になった。 翌日、吉野から電話があり、映画や遊園地へ遊びに連れて行ってもらう。純は、吉野と一日一緒にいて、吉野という人物に好感をもつ。あと二日で北海道へ戻らなくてはならなくなった純は、このまま東京に残るかどうか迷っていた。
北海道へ帰る前日、純は雪子と病院へ令子を訪ねた。雪子は、純に付き添いを頼んで、吉野に会いに出る。純は、令子が寝入ってしまったので、一度アパートへ戻る。物置にしまってあった自転車を出してたかし君の家へ遊びに行き、そこでアダルト雑誌をもらってしまう。家へ戻って、雑誌をバックに隠しているところへ病院の雪子から電話が入り、慌てる。 病院へ行くと令子は起きており、黙って出ていったことを雪子に怒られる。純は、令子の気持ちを考えるとやっぱりこのまま東京にいた方がいいと思い始める。その夜、五郎に手紙を書いているとき、昔のことを思い出していた。それは、五郎が拾ってきた自転車のことだった。東京では、流行遅れになると何でもすぐに捨ててしまう。それに比べ、自分たちの生活は、ものはないけれど何とか工夫して生活している。その素晴らしさに、純は少し気がついてきていた。翌日、病院には顔を出さず、まっすぐ空港に向かった。 東京から帰って一週間が経った。純は、蛍や五郎からUFOの話を聞かされるが信じようとしなかった。思春期を迎えた純と正吉は東京から純が持ち帰った雑誌を見て盛り上がっていた。そして、正吉が、森という新婚の家から聞こえてくる声を聞いて興奮したと言いだし、今夜8時半頃二人で行くことにした。純は、五郎に星の観察だと嘘をつき、家を飛び出すが蛍が一緒についてきたしまう。野原で、寝転がると空に光る物体を見つける。それは蛍と五郎が言っていたUFOだった。3人は、UFOをベベルイの森の方へ追いかけ、そこで本物のUFOに遭遇する。ところが、UFOが去った後、森の中から凉子先生が鼻歌を歌いながら現れ、3人は驚き、このことは秘密にしておくことを約束する。
UFO騒ぎの最中に、新しい事件が持ち上がった。分校の子どもたちの親のところに、凉子(原田美枝子)が2年前、東京で生徒を殴って自殺させた暴力教師だという投書が舞い込んだのだ。五郎(田中邦衛)や中畑(地井武男)は凉子をかばうが、杵次(大友柳太朗)が私事のうっぷん晴らしに凉子の過去の傷を暴いてしまう。 一方、純は性を意識しすぎてやたらに女性の胸や白い足が気になって大弱り。五郎は純が隠していたヌード雑誌をみつけてショックを受ける…。
18年間連れ添った馬を手放した日に、杵次は川に転落してなくなった。笠松の家では、葬儀の準備で慌ただしかった。そんなとき、正吉の姿が見あたらず、五郎たちが探すが見つからない。蛍は、以前杵次から教えられた木の上の家へ純と凉子先生を連れて行く。そこには、一人悲しみに暮れる正吉の姿があった。 翌日、杵次の遺体は焼かれ、夜はご馳走がでた。純は、葬式なのにみんながお祭りのゆうに楽しそうなのに驚く。そんな中で、杵次の息子たちが生前のことをとやかく言うことに立腹する。草太はそんな清吉の様子を見かね、家に連れて帰る。純と蛍は、一足先に辰巳に送られ、家に戻る。純は、さっき清吉が言った「あの馬だけが、爺さんのことをわかっていた。」という言葉がいつまでも頭から離れなかった。夜中に、ふと目を覚ますと、五郎が帰っており、ストーブであの雑誌を燃やしているのを見て、唖然とする。そして、五郎に、最近女性の胸や足が気になってしょうがないので自分は病気だと打ち明ける。五郎は、それは、一人前の大人になった証拠だと説明し、これからは一人前に扱うことを約束する。そして、五郎が秘密にしてきた丸太小屋をつくる計画を話す。 東京から、雪子からの手紙が届く。そこには、令子の容態が書かれていた。雪子の説得にも応じず、病院を変わろうとしない令子に五郎から何とか言ってもらいたいとのことだった。 夕方、正吉とみどりが家にやって、夕食を一緒に食べることになり、純も蛍も喜ぶ。 ところが、ある日学校の授業が終わると凉子先生が正吉が急に学校を辞めて遠くへ行ってしまったことを知らされる。 いよいよ、丸太小屋の計画が実行される日が近づいてきていた。五郎は中畑たちに模型を使って作り方を説明していた。
夏になった。五郎は、この夏中に丸太小屋を完成させると純や蛍に宣言していたが、二人は不安に思っていた。その日は午後から授業が中止となり、凉子先生に連れられてバスで本校に行った。帰りのバスの中で純たちは凉子先生に本校へ来てくれるようにお願いするが先生ははっきりした返事はしなかった。 家への帰り道、自分たちを呼ぶ声に振り向くと、それは東京へ行っていた雪子の声だった。久しぶりの再会に二人は喜ぶ。雪子は、五郎に令子と弁護士の本多が一緒に来ていることを話す。五郎は、二人に会いにワインハウスへ出かけた。令子は、最後に子供たちに会いたいと申し出た。五郎は了承し、その夜純と蛍に正式に令子と別れることを伝え、明日令子と3人で過ごすようになっていると言った。翌日、純と蛍は学校を早引きし、令子の待つホテルへ五郎の車で送ってもらった。五郎は、二人を降ろすと帰ってしまった。 ロビーには令子が立っていた。そこへ弁護士の本多が現れ、4人で中富良野のラベンダー畑へ行くことになった。純は、胸が一杯でラベンダーなんか見ていなかった。純は、一晩中考え令子についていこうと決めていた。蛍は、令子とは一言も口も聞かず、純はそんな蛍の様子にいらだっていた。令子は、二人の通っている学校へ行き、凉子先生から二人の学校の様子を聞き安心する。 五郎は、中畑の家に離婚の保証人を頼みに来ていた。突然電話のベルが鳴り、令子が急に苦しみだし渡辺病院に担ぎ込まれたということだった。五郎は、すぐに病院へ向かった。病院の医者から令子の様態について聞かされるが、ちゃんとしたところで検査をした方がよいと言われる。病室へ行くと令子は目を覚まし、子供たちに会わせてくれたことに感謝していると言った。そこへ、中畑と雪子が入ってきた。雪子は、令子に怒った。
いかだ下りの日が明後日に迫っていた。純と蛍は、初めは、五郎のいかだに乗るつもりだったが、中畑たちが制作している「四畳半」と名付けられたいかだにのれるように頼み込む。それは、五郎と辰巳のいかだが安全性よりも目立つことに重点をおいて制作されていたからだった。純や蛍が「四畳半」乗ることを知った五郎は面白くなく、ふてくされていた。草太は、去年つららを乗せて出たいかだ「みずすまし号」にペンキを塗っていた。母の正子が、雪子と一緒に乗ったらどうかというが、草太は何も答えなかった。正子は、雪子にもう一度牧場で働いてもらうように頼んでもらえないかと草太に言うが、草太はいまさら何を言っていると突っぱねた。 凉子先生は、学校から東京の父に学校の閉校に伴って自分も学校をかわることを電話で話した。電話が終わった頃に五郎が現れ、中畑たちのいかだに乗らないかと誘いに来た。 いかだ下り大会の当日、草太は自分いかだに雪子を乗せたかったが、見栄を張っていた。草太は16番目、五郎たちは20番目そして四畳半は21番目にスタートしていった。五郎は、途中駒草号に乗るこごみと知り合う。急流で五郎たちのいかだはひっくり返り、五郎はこごみのいかだに助けられ、東京の話で意気投合する。四畳半に乗っていた純と雪子は家出していたつららの姿を川岸に見つける。 いかだ下り大会が終わり、純と蛍は凉子先生と家路についていた。そこで、蛍は先生に今夜UFOを見せてもらうことを約束する。臆病な純は、それができなかった。家につくと、まだ五郎も雪子も帰っていなかった。その頃雪子は、辰巳の家でつららの置き手紙を見つけた。家に帰った五郎は、純からつららの話を聞き、草太の家に走った。雪子たちは、富良野駅に行き、つららを探したが、見つけることができなかった。草太も駅の前でバイクに座ってつららの現れるのを待っていた。草太は、雪子たちを見つけるなり、喫茶店に入っていった。五郎と雪子も後を追った。草太は、今日一日はつららのことを考えてやりたいと雪子に言う。雪子は、そんな草太が素敵だと感じていた。 その頃、五郎の家でも一つの事件が起ころうとしていた。UFOを見に行った蛍と凉子先生が9時を回っても帰らなかった。
五郎は、純から蛍と凉子先生がベベルイの奥の方へ行っているかもしれないと聞き、探しに出かける。10時を過ぎても、五郎も蛍も帰ってこなかった。純は、初めは蛍を心配していたが、段々腹が立ってきていた。そのうち寝込んでしまい、入り口の開く音で目を覚ました。蛍が見つかったのだった。五郎は、今日ことは凉子先生が問題にされるから誰にもしゃべらないように純に言った。蛍は、純に今日あったことを興奮してしゃべった。純は、そんな蛍がうらやましく思え、ねたましく感じていた。 翌日、五郎に連れられ、初めて丸太小屋を建てる場所を見に行った。そこで、純は五郎から蛍の話を信じてやらなかったことを叱責される。純は、五郎はいつも蛍の味方だと感じた。 7月27日・28日の二日は、富良野のへそ祭りの日で、五郎は夕方からみんなで見に行こうと張り切っていた。雪子と純が洗濯物を干しているところへ草太がバイクでやって来た。今度札幌でやる試合の取材がジムであることを雪子に伝えに来たのだった。祭りの前にみんなでボクシングジムを訪れたが、そこでの主役は草太ではなく会長の成田新吉だった。五郎たちは、祭りに行くが純は一人ジムに残った。そこで、五郎から口止めをされていたあの事件のことを新聞記者にしゃべってしまったのだった。 そのころ、蛍は五郎の肩車で祭りの見物をしていた。五郎は、祭りでおどるこごみの姿を見つける。その晩、五郎を富良野に残し、中畑の車で家に向かった。車内では祭りの話して盛り上がっていたが、純だけは、あの晩のことをしゃべってしまったことに後悔していた。
五郎(田中邦衛)が「駒草」のこごみ(児島美ゆき)にのぼせてしまった。 不安になった純(吉岡秀隆)と螢(中嶋朋子)は、雪子(竹下景子)が父さんのお嫁さんになってくれたらと願う。 だが、雪子は新しい丸太小屋が出来上がったら純たちと別れて、一人暮らしを始めようと考えていた。
凉子先生がいなくなってから、富良野は秋めいてきていた。駒草で飲んでいた五郎は、その噂が消息の分からなくなっている辰巳の妹のつららのことだと知る。そして、つららがすすきののトルコで働いており、店での名前が「雪子」だと聞いてショックを受け、清吉に相談する。 ある夜、新吉と中川は五郎がこごみのアパートに入っていくのを目撃し、中川がそのことを中畑に話した。中畑は心配し、五郎にこの冬の自分のことを話し、こごみを諦めるように説得する。家に帰ると、清吉が訪ねてきていた。清吉は、札幌のすすきので働くつららの様子を見てきたことを五郎に話した。 ボクシングの試合前日、純と雪子は草太がとってくれた札幌の旅館で草太からの連絡を待っていた。そこへ、ジムの会長の新吉から電話が入り、三人で食事をすることになった。新吉はボクシングの厳しさを二人に話し、食事の後、ホテルへ送つてくれた。帰りぎわ新吉は、雪子につららがトルコで働いていることを話した。雪子は、そんなつららの境遇にショックを受ける。 翌日、草太の試合が行われた。第2ラウンドに強烈なパンチを受け、草太はリングに沈んだ。純と雪子は控え室に向かう通路で、つららと再会した。つららの変わり様に二人は驚きを隠せなかった。 この四五日、街に出かけていなかった五郎は、蛍から他に好きな人かできても平気たと言われ、複雑な気持ちでいた。8月20日で夏休みも終わり、純と蛍は本校へ通い始めた。
札幌で草太の試合が終わってからひと月が過ぎていた。あの日から、雪子の様子が何となく変わり、草太も家に寄りつかなくなった。 10月に入って、待ちに待った日が来た。それは、今日が丸太小屋の組み立て工事の始まる日だったからだ。その日は土曜日で純も蛍も学校が終わると、急いで現場に走った。五郎たちは既に、何段かの丸太を組み終えていた。純や蛍も手伝った。昼食の休憩時間に入り、五郎たちには内緒で純と蛍の二人は森へ山ブドウを採りに行った。それは、明後日の五郎の誕生日のプレゼントのためだった。純と蛍はその誕生日にこごみを呼ぼうかどうか迷っていた。 現場では、トイレに行っていた松下がクマの足跡を発見したと言って戻ってきた。どうも、親子のクマだと言うことだった。中川らは、家へ鉄砲を取りに戻っていった。そんなことが起こっているとは知らず、純と蛍は山の深くまで山ブドウを採りに入り込んでいた。近くで物音がするが、蛍はキツネだと言ってブドウを採り続けた。ところが、二度目に大きな音がしたので、二人は大声で歌を歌いながら森から無事に戻ってきた。夕食の時、本当にクマが出たことを知った二人は、ブドウ採りに山に入っていたことも言えず、箸を持つても震えていた。その夜、二人は神様にお祈りをした。 次の日は、日曜日で中も現場で作業を手伝った。蛍は、昼食の材料を持って家を出たところでこごみと出くわす。現場へ行く途中、蛍はこごみに五郎の誕生日のパーティーに招待した。二人が現場に着くと、五郎や中畑たちの様子が変わり、途端に暗い雰囲気になってしまった。そこへ、みずえとすみえが現れ、中畑は慌てる。中畑は、すみえと純をつれて、落葉キノコを採りに森へは行っていった。純は、中畑からこごみが飲み屋に勤めていることを知ってしまう。現場では、こごみが中川から何事か耳打ちされ、そのまま帰ってしまう。蛍が中川に訳を聞くが、何も教えてくれなかった。
次の朝、純と蛍は五郎から令子が死んだことを知らされた。雪子と純と蛍の三人は、汽車に飛び乗り、昼には千歳空港に着いていた。 東京の令子のアパートでは、葬儀の準備でごった返していた。雪子は、友人のみや子に会い、令子の死因に不信感を覚えた。アパートでは吉野が憔悴しきっていた。純も蛍も棺の前に座るが、吉野が自分の子供に「おかあさんにお別れを言いなさい。」言ったのを聞き、二人はショックを受け、二人はアパートを飛び出し、街に出た。その夜、雪子は吉野に司法解剖をするように願い出るが、周りから反対される。そこへ、北海道から北村清吉がやって来た。しかし、五郎はまだ到着していなかった。純は、五郎が遅いのが気に入らなかった。清吉が部屋に顔を出し、雪子を外に誘った。屋台で清吉は、昔長男が東京から嫁を連れてやって来て、牧場を手伝ってくれていたが、ある日突然二人で東京へ戻っていってしまったことを雪子に話した。それ以来、東京の女の人を信用しなくなってしまったというのだ。清吉と雪子は、おでんを二皿包んでもらい、アパートに帰った。 翌日、純が8時過ぎに目を覚ますと、台所で五郎がカップラーメンをすすっていた。五郎は、今着いたんだと純に言った。 10時頃から葬式の手伝いのために人がやってきていたが、五郎は周りの静止も聞かず台所に入りっぱなしだった。そんな、五郎の姿が純には情けなく見えていた。公園で座っていると吉野が近寄ってきた。吉野は、自分の好きになる人はみんな死んでしまうと言う。純が破れた靴をさわっているのを見て、二人を靴屋に連れて行った。そして、新しい靴を履くように言った。二人は、一様断ったが、母さんが悲しむという吉野の一言でそれを履くことにした。今まで履いていた靴は、店員によって段ボール箱に無造作に捨てられてしまった。
東京で1週間が過ぎた。 しかし純が好きだった友だちも先生も、 純には以前と違って色褪せてみえた。 「ぼくの方が変ったんだ。きっとそうだ」 北海道の大自然の中で五郎とともに生きてきた この1年間が純をたくましく変えたのだった。 富良野に戻ると父の建てた夢の丸太小屋が 純と螢を待っていた。そしてある夜、 死んだと思っていた螢のキツネが 何ヶ月ぶりかで帰って来た。
五郎とクマさんば、11月から東京へ出稼ぎに出ていた。純や蛍のクリスマスプレゼントを買いに、デパートへ行き、そこで東京の子供たちがテレビゲームに夢中になっている姿を見て驚く。五郎の腕の中には、お菓子の詰まった長靴が2つ抱えられていた。 五郎が出稼ぎに出ている間、純と蛍は、丸太小屋で2人だけで生活をしていた。五郎とクマさんが帰ってくる12月30日、二人は、富良野の駅まで草太に送ってもらった。草太は、青年団の花嫁対策委員をやっており、花嫁探しに燃えていた。家に戻ると、雪の上に足跡があった。突然、家のドアが開き、中から吉本辰巳と友子が現れ、二人は驚く。 翌日の大晦日、五郎は朝から壊れていた風力発電の修理をしはじめ、純はそれを手伝っていた。そこへ、中畑和夫たちが正月の準備の物を持って現れた。純は、中畑の娘のすみえから正吉が家を飛び出したことを知らされた。その夜、蛍はあの雪の上の足跡は正吉のものではないかと純に話した。純は、蛍の話よりもNHKの紅白歌合戦の方に気持ちが向いていた。純は令子からもらったラジオを見つめながら富良野へ来た年の大晦日の出来事を思い出した。テレビで紅白歌合戦を見るために正吉の家まで行ったが、母親と楽しそうに過ごしている正吉を見て、中に入らずにそのまま家へ帰ってきたことをだ。
純と正吉が中畑すみえを牛の膀胱とトウキビの毛でつくった人形で驚かした。その知らせを聞いて五郎と中畑が駆けつけてきた。 正吉の母のみどりから五郎に手紙が届いていた。今年の冬に丸太小屋が正吉の不始末で焼けてしまったことへの謝罪と8月になったら正吉を引き取りに行くことが書かれていた。 夏休みに入ってすぐの頃、東京から中畑和夫の妹のゆり子が息子の努をつれて来ていた。純と蛍と正吉は、努を紹介されるが、努は愛想がなかった。努は、東京からパソコンを持ってきていた。それを見た純は、とてもうらやましく思えた。純と正吉がパソコン雑誌を開いていると努が「汚すなよ」と言ったことに二人は腹を立て、部屋を出ていった。 五郎は清吉を訪ね、今度の家に住むようになって、何とか北電に電気を通してもらおうと佐々木という人を通して頼んでいたが、負担金が80万円もかかるため、あきらめることにしたことを話した。五郎の帰り際に清吉は、雪子と草太の結婚についてなかなか雪子がはっきりしないので、そのわけを聞いたが、五郎ははっきりとした返事ができず困った。 草太は、今年のいかだ下り大会に雪子と二人で参加するために新しいいかだを準備していた。いかだには、ローマ字で「YUKIKO」と書いてあった。
純は、地元の麓郷中学校に通っていた。純は、いろいろな物を分解するのが趣味だった。そのため、電気屋のシンジュクはよく修理のためよく呼び出されていた。この日も、純が柱時計を分解しているところへシンジュクがやって来た。5日前に車のヘッドライトが分解されたことに腹を立てていたのだった。五郎は、近頃純のことが段々わからなくなってきていると担任の先生にほやいた。 学校帰りに、広介からチンタに好きな女の子がいることを知らせれる。人参工場の裏の空き地でチンタは、二人に次の土曜日に見せると約束した。そこへ広介の姉のアイコが現れ、つららが宜しくと言っていたと草太に伝えるように頼まれた。その帰り道に、近所の大きな農家の大沢家の裏手の中の沢沿いの脇道で壊れた風力発電の機械を見つけ、分解を始めると鏡で光を当てる女の子が現れ、近づいてきた。純はとまどい、その女の子の手から自分の道具を奪い取り、その場から走り去った。その夜、純は蛍に大里の家の女の子のことを聞き、その子の名前が「大里れい」と知る。純は、五郎のあきらめた風力発電をれいの家の部品を利用して、五郎の誕生日にプレゼントしようと考えていた。 次の土曜日純たち三人は、富良野の町へチンタの彼女を見に出かけていった。その子は、毎週土曜日にジャズタンススクールに通っているといい、3人は窓越しから覗いた。ところが、その子は大里の家のれいだった。純の心は、ドキドキしていた。二人と別れ、一人家路を歩いていると、草太がバイクで現れた。純は、広介の姉からの言づてを伝えた。草太は、人参工場へ広介の姉を訪ねる。アイコは、つららが結婚して子供も出来たことを話す。草太は、それを聞いて安心し、アイコを町へ誘った。
1988年秋・・・・・・ 今日も、蛍は旭川の病院へ出勤するために五郎の車で富良野の駅へ送ってもらった。蛍は、中学を卒業してから昼間は旭川の病院に勤め、夜定時制の看護学校に通っていたのだった。そのため、毎日富良野駅発6時02分の始発列車に乗らなくてはならなかった。 蛍は、列車でいつも一緒になる青年にこころがひかれていた。その日、青年の膝の上の本が落ちそうになったとき、彼が「風の又三郎」という小説が読んでいることを知る。 旭川の駅に列車が着くと、蛍は病院へ走った。蛍が勤める病院は、「竹内病院」という肛門科の病院だった。先生は、五郎からカボチャを送ってもらったお礼を蛍に言った。 五郎は、中畑に丸太小屋をつくるための丸太を頼んでいた。五郎は、今度は一人で丸太小屋をつくるつもりでいたのだった。設計図には、3人分の部屋があった。 蛍は、書店で注文してあった宮沢賢治の「風の又三郎」受け取り、帰りの列車で青年が読んでいる姿を見て、自分も袋のポケットから取り出し読み始めた。富良野駅に着くと青年が自転車に乗って帰っていく姿を見送り、五郎の待つ車へ向かった。五郎は、車の中で眠っており、蛍に車の窓をたたかれ目を覚ます。 その晩、蛍は五郎に来年から住み込みになるからと告げるが、五郎は風呂の中で眠ってしまった。 翌朝も、蛍は青年と一緒の列車で互いに「風の又三郎」を読んでいた。その日、蛍の勤める「竹内病院」へその青年が治療のために現れる。そこで、初めて青年の名前が「和久井勇次」と知る。 その日の帰り、旭川の駅のホームで再び勇次と会い、富良野までの列車の中で蛍は勇次が予備校へ通う浪人生であることを知る。富良野駅に着くと、蛍は勇次に自分の赤い傘を貸し、手を振って勇次と別れた。五郎は、その光景を電話ボックスの中で見てしまう。五郎は、風呂に入りながらそのことが気になってしかたがなかった。風呂から上がると流しにサンドウィッチを見つけるが、蛍が二階から降りてきてサンドウィッチを隠すように持って二階へ駆け上がっていった。ラジオからは長渕剛の「乾杯」が流れていた。次の朝、蛍は昨夜つくったサンドウィッチを勇次と二人で列車の中で食べた。
五郎は、へそ祭りのマスコットの影から、病院から出てくる男を待っていた。その男が出てくると、慌てて走り出し、遠回りして、路地角で衝突しそうになる。その男は、財津医院の院長先生で、五郎が旭川の看護学校に行っている蛍の就職をお願いしていた人だった。五郎は、一昨年から職業訓練校に通い、最近麓郷の棟梁、加納金次のところに弟子入りしていた。 五郎が、棟梁の金次の作業場に行くと、金次が息子のオサムと何やら話していた。金次は、昨日の五郎の作業について注意した。二人は、完成した御輿の台を車に乗せ、富良野へ向かった。仕事を終え、ラーメンを食べながら金次は五郎に自分の息子のことで悩んでいることを打ち明ける。五郎は、金次の息子が大工を止めて東京へ出たいと考えていることを聞かされた。そして、純が将来何になりたいと考えているのか知っているかとたずねられ、口ごもってしまう。 五郎は、前の家が大雪で潰れて後、中畑木材の土場の隅にあった倉庫を改造して住んでいた。角材を方に背負い、家に戻ると愛犬アキナが五郎を迎えてくれた。入り口の戸を開けると一通の手紙が落ちた。それは、東京の雪子からの手紙だった。手紙には、7月の26日から3日ほど大介と二人泊めてもらえないかと書いてあった。急いで、アキナに夕ご飯を与え、東京の雪子へ電話をかけ、歓迎すると伝えた。五郎は、雪子や大介、最近帰ってこない蛍のことをアキナに話しかけながら夕食を食べていた。
純はビザハウスの店先でタマコが出てくるのを待っていた。タマコは、純を見つけるが、そのまま配達用のバイクに走った。純は、近づいて、タマコにちゃんと診てもらった方がいいんじゃないかと言うと、タマコは一緒に産婦人科に行ってくれるかと聞いてきた。純は、返事できなかった。 純は、相談する人もおらず、どうしていいのかわからなかった。どうしても気になって、タマコに電話をした。純は、何か面白いビデオがないかたずねると、「陽のあたる場所」という映画を勧めてくれた。純がそのビデオを借りようとすると、店の主人がニヤニヤしながら応対した。純は、ここ2・3日食欲もなくビールしか口に入っていかなかった。ところが、その映画は美しい婚約者ができた青年が、妊娠させてしまった昔のガールフレンドに結婚を迫られ、処置に困ってそのガールフレンドを殺してしまうという筋書きで、青年はその後死刑になってしまうというものだった。その晩、いやな夢を見た。それは、さっき見た映画とそっくりで、自分が誤ってタマコを殺してしまう夢だった。 翌日、ガソリンスタンドに、小学校の同級生の中井が偶然給油に現れた。中井に話かけられているとき、純はタマコを見つけ、まだこないのかとたずねてみるが、心配しないでと応えただけだった。夜、小学校時代の同級生たちと集まって話をしているとき、妊娠検査薬の話を耳にした。翌日、薬局でそれを買って、例のラブホテルでタマコとおち合った。検査薬は残念な色になった。アパートに帰ると、札幌のれいちゃんから手紙が届いていた。その手紙を読み終え、純は頭を抱えた。 純が、車のフロントガラスを拭いていると、突然電話だと言って呼ばれた。それは、タマコの叔父からのものだった。純は、すぐにメモした病院へ急いだ。病室の戸を開けるとタマコの叔父と叔母が立っていた。純は、自分の名前を言うと、叔父が近づいてきて病室の外へ出るように顔で促した。廊下へ出るといきなりその男は純を殴りつけた。
1994年秋 五郎は、石の家で一人暮らしていた。中畑和夫と成田新吉が石臼をもって五郎を訪ねてきた。和夫は、町に下りてはどうだと言うが、はぐらかしているばかりで一考に聞く耳をもたなかった。純は、一年前から市役所の臨時職員として環境管理課で働いてていた。また、正吉も去年自衛隊を退官して純と一緒にアパートで暮らしていた。ある日、山部のリサイクルKKに修理したアンプを持って現れると、以前に純がもらった柱時計を探しに一人の少女が少女が焼却炉の前にたたずんでいた。 純は、富良野に帰ってから札幌のれいちゃんとときどき会っていた。純と正吉は、アパートの部屋を使うとき、入り口に黄色いハンカチを表札に縛っておく約束にしており、純は黄色いハンカチを自分の表札に縛り、階段を下りていった。れいちゃんは、会うたびに洗練された女性になっていた。純は、れいちゃんから別の男性にプロポーズされたことを知らされ、当惑する。二人は、喫茶店を出て、昔通った八幡丘の道を歩いた。歩きながら、中学生の頃の昔を思い出していた。純は、れいちゃんに迫るが、れいちゃんに拒まれ、「もう結婚すれば・・・、その大人と」と言ってしまう。歩いている二人のもとにチンタがパトカーで現れる。チンタとれいちゃんは楽しそうに会話をしていた。その後、純はほとんど何も言わないれいちゃんをバス停まで送った。別れ際に、れいちゃんは純にコロンをつけるのを止めるように忠告する。純は、言葉にグサッと来た。それは、ゴミ収集の仕事についてから、自分の匂いを気にするようになっていたからだった。 純は、柱時計を持ち主の娘に返しに、金物屋でその娘を待ち、柱時計をもってアパートまで送った。純は、その娘の名前が「小沼シュウ」と知る。アパートに戻ると黄色いハンカチがかかっていた。純は、シュウを喫茶店に誘った。そこで、シュウが東京に住んだことがあることを知った。シュウから東京は愉しかったか聞かれるが、「卒業したんだ・・・・東京は、もう」と答えた。「I Love You」が店内に流れ始めた。 シュウを送ってアパートへ戻るともう正吉たちはいなかった。部屋で寝転がっていると、電話が鳴った。出ると男が妹の螢はいないかと聞いてきた。純が札幌にいると答えると電話は切れた。
1995年 正月 大晦日と正月の二日間はゴミの仕事も休みになり、純は草太や広介たちとスノーモービルを楽しんだ。螢は、家には帰ってこず、年賀状をよこしただけだった。 純は、草太から「過去は気にするな。早く唾付けろ!」と言われたことが気になっていた。「過去」って誰の?その夜、純は正吉にシュウのことで何か知っているのかとたずねたが、正吉は忘れたと答えただけだった。 純がゴミ収集をしているとパチンコをやりに来た広介に声をかけられた。純は、広介に聞きたいことがあるから今晩行っていいか聞いた。広介は、6時過ぎにはいると言った。 その夜、純は広介の家に行き、シュウのことで何か知っているのではないかと聞いた。広介は、部屋の奥から一冊のAV雑誌を出してきて、純に見せた。そして、シュウが出ているビデオを借りてきて正吉と一緒に見たことも話した。純は、ショックと怒りを感じていた。帰り道、純は町のレンタルビデオ屋に寄って、シュウの出ているビデオを借り、アパートの部屋でそれを見始めたが、正吉がビデオを止めた。純は正吉を殴り、正吉は自分のしたことを純にあやまった。正吉は、アパートを出た。草太の家で広介を外に呼びだし、正吉はいきなり広介を殴り、広介が純にシュウのことを話してしまったことを怒った。 純の乗った清掃車のゴミから出火する事故が起こった。純は、警察署で事情を聴取された。それが終わって外へ出るとシュウが純の上着を持ってしゃがんで待っていた。2人は、ラーメン屋に入った。そこでシュウから昔知っている事務所が火事になってフィルムなんかが爆発するみたいに燃えて大変だったことがあった聞かされた。純は、その中にアダルトビデオもあったのかとたずねたが、シュウは知らないと答えた。その後、純はシュウのアパートへ寄った。いつもと様子の違う純に、シュウは何か隠し事があるのかきくが、逆にシュウの方にあるのではないかと言い返した。純は、いろいろあって疲れているからといってシュウのアパートを後にした。
1997年 初夏 根室に仕事があった帰り、正吉は落石に螢を訪ねた。正吉は、五郎が炭焼きを始めたこと、純が仕事を続けていること、シュウともうまくいっていることなどを話した。螢から、結婚のことを聞かれ正吉は相手がいない空き家だと答えた。そして、正吉も螢に富良野へは戻ってこないのかと聞くが、螢は何も答えなかった。 純が、チンタの兄完次の新居に結婚祝いを車で届けると、ベッドにチンタが寝ていた。チンタは、兄に恋人を奪われたことにめいっていた。完次は、五郎の助けで有機農法を始めていた。五郎は、純に人に喜んでもらえることは金では買えないと言った。純もそのことが少しわかるようになってきていた。 純は、正吉に今度の日曜日にシュウの実家の上砂川に挨拶に行くと話した。次の日曜日に、上砂川に車を走らせ、シュウの実家を訪れた純は、緊張して殆ど何を話したのか覚えていなかった。帰るときになってみんなやさしく見送ってくれた。純は、シュウと父を乗せてカラオケへ行ったが、シュウの父だけが歌い続けて、一人で帰っていってしまった。それから二人は、シュウが昔住んでいたという上砂川の炭坑跡へ行き、シュウから父のことを聞かされた。純は、シュウの家族にどう思われたのかが心配だったが、シュウは以外と愛想が良かったと答えが、兄から話があるからすぐには富良野へは帰れないとも言った。純は、アパートへ戻ると正吉に今日のことを報告したが不吉な予感がしたのだった。 シュウからの連絡は、あの後何もなかった。純は、自分の職業のことを気にしていた。 五郎のもとに、突然雪子が一人であらわれた。雪子は、五郎に私も一人になったと話した。五郎が訳を聞くと離婚して息子の大介も父親の方を選んだと答えた。夜、草太がバイクで五郎の所へやってきた。草太が風呂場を覗くと女性の悲鳴が聞こえ、驚いた草太は中畑和夫の家へ報告に行った。中畑と草太の二人が再び五郎の家へ行くとベランダに雪子の姿を見つけ、草太は走り寄った。その夜、純のもとにシュウから明日会いたいと電話が入った。
畑に収穫の秋がやってくる頃、螢が富良野に戻ってきた。結婚式が1月に決まり、それまでは五郎と一緒に住むことにしたのだった。草太の牧場にシンジュクが血相を変えてやってきた。シンジュクは、中畑和夫から螢のお腹の子は正吉の子ではないと聞かされと言ってきた。草太は、誰にも言うなと言ったが、草太が中畑にしゃべったことで、秘密では無くなってしまうとシンジュクは草太を攻めた。草太は、螢だけには幸せにしてやりたいと言った。10月10日、今年始めて雪虫を見た。 ある日、純はニングルテラスの雪子を訪ねたとき、螢のお腹の子は正吉の子ではないかもしれないと五郎が言っていたと聞かされ、螢の子の父親について疑問を抱くようになった。中畑から言われたことが気になっていた五郎は、螢の鞄に母子手帳を見つけ父親の欄が未記入になっていることを知った。五郎は、上砂川のシュウを訪ねた。五郎は、シュウと夕食を共にしながら、シュウから純に連絡を取ってくれるように頼んだ。 完次とツヤ子が農家の連帯保証人達に呼ばれた。草太は、完次がつくった借金はこれ以上肩代わりはできないから、ここからさっさと出ていくように言った。広介からその話を聞いた純と正吉が完次の家に行くとツヤ子と五郎が居た。完次は組合長のところへ行っているらしかった。純達は、とりあえず五郎の家に戻った。純と正吉がアパートへ戻ろうと家を出るとツヤ子が走ってやってきて、完次がどこの家にも居ないと話した。完次は、借金を苦に農薬を飲んで自殺しようとしているところを発見され、助けられたのだった。
草太の牧場を引き継いで4年が過ぎていた。純と正吉が引き継いだ牧場は破産し、正子とアイコは富良野から消え、純と正吉は借金を2人で分担し、今後少しずつ払う約束をして別々に富良野を離れた。螢は、看護婦をしながらアパートで快と一緒に住んでいた。五郎は、今の何よりの楽しみがこの快と一緒に遊ぶことだった。 ある日、五郎は保育所から快を石の家へ連れてきて遊んでいると螢が車で乗り付け、勝手に保育所から連れてきたことで五郎を怒鳴りつけた。五郎は走り去る車に向かって雪子の息子の大介が今日来ることを言う。 ニングルテラスのロウソク屋で働いている雪子のもとに16歳になった大介が現れる。大介は、殆ど話もせず無表情で食事をしていた。すると携帯が鳴り、大介は携帯を持って外へ出ていってしまう。そこへ、五郎が現れ、大介に話しかけ、脇に座るが携帯のメールに夢中で、すっと立って家の方へ歩いていってしまう。 翌日、五郎が炭焼き用の材を造っていると中畑が娘のすみえを連れてやってきた。札幌で保母をやっていたが、今度結婚することになり富良野に戻ってくることになったことを知り、五郎は中畑を祝福する。しかし、中畑は、相手の男を余り気に入っていなかった。今晩、祝いの食事をするから一緒につき合うように頼まれる。そこへ、すみえの相手の男清水正彦がバイクで現れた。正彦は、五郎が廃材で造った雪子の家に感動していた。その夜祝いの会で正彦は自分たちの新居を五郎に造ってもらいたいと言い出した。そして、バイオ発電で電気をつくることを提案する。五郎も、興味を示すが、中畑は不満だった。 五郎が、テラスでバイオ発電の図面を見ていると、車の音がして一人の女性が道を上がってきた。五郎は手をかざしてその女性を見た。シュウだった。 シュウは五郎のために風呂をたいた。五郎は、シュウが結婚して神戸へ行くことになったことを告げた。シュウは純に当てた手紙をテラスの上に置いて帰っていった。五郎は、シュウの後ろ姿に深々と頭を下げた。突然五郎は激しい痛みに襲われた。
10月の末の寒い夜、雪子の息子の大介が、ひっそりと富良野を去っていった。同じ夜、螢の勤める病院にみずえが急患で運ばれてきた。医者が螢に癌が肝臓までまわっていると話してきた。待合室で中畑和夫は、螢にすみえ達の新居を急がせていると話した。ある日の夜、新吉は五郎に遺言を書くように勧め、山下という元先生を紹介した。五郎は、遺言を書いて山下を訪ねた。山下は、五郎が造っている廃棄物の家を一緒に造りたいから弟子にしてくれるように頼んできた。 ある日、現場に結の義父トドが現れた。そうとは知らない五郎は、地元の人と勘違いし作業を手伝わせてしまった。トドは、五郎のやっていることに感銘を受けた。五郎は、その夜トドを自分の家に泊めた。トドは、五郎と酒を酌み交わしながら、それとなく五郎に家族の事情を聞いた。 純が、朝目覚を覚ますと携帯が鳴った。出ると結からだったが義父に変わり、明日の朝海に出るから5時に迎えに行くと一方的に話して切れた。翌朝、純はトドに連れられ初めて冬の海に出た。トドは、純に五郎を羅臼に流氷を見せに呼ぶように言った。それから、純は富良野の五郎に手紙と片道の旅費を送った。 夜、五郎がすみえの新居で作業をしていると和夫が現れ、みずえが春までは持たないからすみえの結婚式を来週中にやろうと思うと言い、式には誰も呼ばずに行うと話した。五郎は、あと一週間で何とか形にするから家のことは自分たちに任せ、少しでもみずえについているようにと言った。天井でその話を聞いていたシンジュクも涙した。五郎は、この冬羅臼に行くと純に手紙を書いた。