1960年、世界を二分する両大国の宇宙開発戦争が激化するなか、宇宙飛行士を目指す青年レフ・レプスは、ある日、極秘の任務を命じられる。 それは人類初の有人飛行を前に、実験体として吸血鬼を宇宙に送る計画――『ノスフェラトゥ計画』のため、イリナ・ルミネスクという少女を飛行士として訓練すること。 吸血鬼は『呪われし種族』と忌み嫌われ、恐れられる存在。不安を抱きながらも、レフは彼女のいる監房へと向かう――
訓練が開始した。イリナは持ち前の優秀な身体能力と負けん気で、厳しい訓練もこなしてゆくが、周囲の風当たりは強く、イリナもレフに心を開かない。順調に進んでいくと思われた訓練だったが、彼女に致命的な弱点が発覚し――
訓練を始めて10日。全てにおいて優秀な成績のイリナだが、高所恐怖症のため、宇宙飛行士には必須のパラシュート降下だけがうまくいかない。もしイリナが挫折すれば、既に秘密を知りすぎた彼女は国家に処分されてしまう。なんとかして高所恐怖症を克服させなければならない。 高所は危険であるという動物的恐れを星空の美しさという良いイメージで上書きすれば、きっと恐れも吹き飛ぶはず。レフは一計を案じ、イリナを夜間飛行へと連れだす。
イリナの打ち上げが12月12日と決定した。訓練も残り3週間。期日が迫るなか、イリナとレフは街へ息抜きに出かける。 イリナにとって夜の街は目新しいことばかり。レフ行きつけのジャズバーで茱萸の浸酒を味見したイリナは酔っぱらってしまう。その後、湖でスケートを楽しんだイリナは、レフに自身の過去と吸血鬼に伝わる伝説を打ち明ける。 イリナの想いに応えたい。全てを知ったレフは必ず彼女を宇宙へ連れてゆくと誓う。
打ち上げまであと14日。イリナが無響低圧室での孤独訓練に入っている間、レフは候補生たちと訓練を共にする。 そんな折、政府の高官リュドミラが訓練の視察に。さらに彼女はイリナの訓練を見たいと、レフに話を持ちかけ――
訓練中『パールスヌイ6号』の事故現場を見てしまったイリナは、そのショックから悪夢を見るようになる。食事もとれず、ついには訓練中に倒れてしまうイリナ。吸血鬼の彼女を回復させるため、レフはある手段を取る。
レフがいない中、ロケットの打ち上げ準備が進む。航行中は機密保持のため、イリナは『リコリス』と呼ばれ、通信音声は暗号の料理のレシピのみだと命じられる。限られた人々だけが見守るなか、極秘の打ち上げへ。
様々な困難を乗り越え、イリナは宇宙から無事帰還した。しかし、その初の偉業が公に称えられることはない。むしろ秘密を知りすぎた実験体として、国家上層部からその処遇が検討されることとなる。 一方、レフはイリナの監視役を解任され、晴れて補欠から宇宙飛行士候補生の一員に戻る。これからは卒業試験に向けて、厳しい訓練に打ち込まなければならない。 共に宇宙を目指した二人の道は、様々な思惑により少しずつ分かれてゆくのだった。
レフは『ミェチタ・シエスチ(夢の6人)』に選抜され、ミハイル、ローザと共に宇宙飛行士第1号の座を争うことになる。連日苛酷な訓練が続くなか、上空からのパラシュート降下中に失神したローザを、レフは命がけで救助する。 一方、国家上層部ではイリナの処遇について議論が交わされ続けていた。そんななか、アーニャと街に出たイリナを暴走自動車が襲う。 自分は廃棄処分されるのだ――イリナの心に死への恐怖が刻まれていく。
『共和国軍の日』の休日、レフはイリナと街に出る。映画を見たり、湖畔でイリナ手作りのホロデーツを食べたりと、さながらデートのよう。急速に近づく二人の距離。しかしイリナは、心ひそかにレフとの哀しい別れを予感していた……。 そして、いよいよ有人飛行の実施へ。最終候補として選ばれたレフとミハイルは、公開用の記録撮影のため首都サングラードへ向かう。そこで彼らを待ち受けていたのは、あのリュドミラだった。
1961年4月12日、ついに出発の時。様々な人々の想いを背に、レフは人類初の飛行士として宇宙へ旅立つ。イリナが切り開いた宇宙への道。大気圏を抜け、レフが目にしたのは、かつて彼女がレフに伝えた光景そのままで――
人類初の偉業を成し遂げ、レフは国民から盛大な歓迎を受けるが、そこにイリナの姿はない。首都で行われる記念式典と検閲済みのスピーチ。本当にこれがレフの望んでいた結果なのか。レフとイリナ、二人が描く未来とは。