日を重ねるごとに、存在がさらに希薄になっていく義之。 もはや記憶どころか、彼そのものが人々の目に映らない。 小恋や渉にまで忘れ去られてしまった義之は、さすがに落胆の色を隠せなかった。 だが、由夢はそんな彼を励まし続け、かけがえのない思い出をつくろうとデートに誘う。 やがて彼らは海岸、神社、公園などさまざまな場所へ出かけた。それはデートというより散歩に近いかもしれない。 賑やかな場所に行くわけでもなく、ぶらぶらと歩くだけ。しかし、由夢にとっては、義之とともに楽しい時間を過ごせれば場所はどこでも構わなかった。 それぞれの場所でそれぞれの楽しさを満喫した彼女は、最後に義之を風見学園の屋上に連れていく。
そこで由夢は、自分が予知夢を見ることができ、その予知夢で義之が消えてしまうことを知ったと打ち明ける。 スキー旅行のときも、自分の誕生日のときも、夢は全て正夢になった。だから、義之が消える運命も変えられない。 そう思った彼女は今、悔いのないよう自分の気持ちを初めて伝える。「兄さんが大好き」と。 それと同時に、ずっと抑えていた想いがたちまちあふれ、やがてそれは涙となって頬を伝った。 大好きな兄の胸に飛び込み思い切り泣いたあと、由夢は体を離しついに別れを決意。 最後にこの上ない笑顔を見せた彼女は、義之を音姫のもとへ送り出す。 姉も、彼への気持ちを伝えられないままではきっと後悔すると考えたのだ。 そんな由夢に背中を押され、義之は駆け出した。やがて彼は、枯れ果てた桜の木の下で音姫の姿を見る。 だが、そこで義之はついに最後の時を迎えようとしていた…