枯れない桜が散ってから2か月後。初音島の季節は冬から春へと変わり、音姫と由夢は本校と付属の最上級生となった。 新学期の始まりの朝、音姫はなかなか起きない由夢を急かし、一緒に家を出る。 見れば桜並木の桜が再び花をつけている。 そんな木の下を歩いていく2人は、存在が消えた義之のことを話題に出すことはなく、ついに彼を忘れてしまったかのように見えた。 しかし、心の中では音姫も由夢も彼を確かに覚えていた。 そしてこれからも忘れまいと、音姫はノートに義之の名前を書き綴り、由夢は彼とのデートコースを一人でもう一度巡る。 義之のことを思えば思うほど悲しくなるが、完全に忘れてしまうほうがもっと悲しいことなのだ。 たとえ毎日泣き暮らすことになろうとも、大好きな人と過ごした日々は忘れない。2人ともそんな強い思いがあった。 やがて、かつて枯れない桜だった木にも新たな蕾が芽生える。 それと同時に、桜に取り込まれたさくらの意識も一時的に目を覚ました。 彼女は初音島の様子を感じ取り、あることに気付く。 小恋が、ななかが、渉が、自分の中で欠けた何かを取り戻そうとしていることに。 彼らはおぼろげながらも、どこかで義之のことを覚えていたのだ。 枯れない桜の力がなくなっても消えることがない純粋な思いを感じ、それをもちながらも音姫や由夢たちが悲しみ続けるのを見たさくらは、いてもたってもいられず、桜の木に向かって一つの願いを託す。 みんなの思いが奇跡となることを信じて。 するとその願いに呼応するかのように、桜の蕾が花開いた。そして……。