――その時は、最愛の女の子が何年も帰ってこなくなるとは思いもしなかったのだ。 衣世での夏離宮襲撃を経て、帝州へと向かった春主従。 さくらはより一層、雛菊に対しより過保護に振る舞い、冬主従もまた遠くから二人を見守っていた。雛菊は訪れた地で、春の里を想起する。 決まって思い出すのは、先代の春の代行者である母のことだった。 いまより昔のこと。 当時、春の代行者を務めていた雛菊の母・紅梅が、幼い雛菊を連れて春の里へ向かっていた。雛菊の父である花葉春月に娘を預けるためだ。 「母さま、また春のけんげんをしにいくの? もう春なのに?」 「実は母さま、あまり身体が良くないの。だから、治療をしにいかなきゃ」 雛菊が思い返す過去は、いつも悲しみを纏うものばかりだ。 春の里について雛菊が想いを馳せる傍らで、さくらもまた古い記憶を引っ張りだしていた。 のちに自身の最愛の主となる人との出会いの過程。そして、さくらが如何にして代行者護衛官になったかを。 代行者の始まりの物語は、以下のように続く。 ――冬はその言い分に悲しんだが、大地の願いを聞き入れて、自分の生命を更に削り生命を創った。それが夏と秋だった、と。