とある会社のサラリーマン、三橋。学歴は優秀だがプライドが高く協調性0な彼は、上司に叱責され、むしゃくしゃしたまま路地裏へ迷い込む。「一香軒」でオーダーしたのは肉汁タップリ、パイナップルが隠し味の極上ハンバーグ。あまりのうまさにさっきまでの暗い気持ちを忘れ、思わず笑顔がこぼれる三橋。その笑顔を自信満々に見つめていた店主は、なぜか三橋に笑顔の大切さを力説し始める。
久々の夫婦水入らずの伊豆旅行に浮足立つ専業主婦の久美。だが夫の急な仕事で旅行はキャンセルに。せっかくだからと伊豆で食べるのを楽しみにしていた新鮮なアジの姿造りを食べようと、1人で出かける久美だったが、中途半端な時間に空いていたのは「一香軒」だけ。中華屋に1人で入ったことがない久美は、ドアを細く開け店内をおそるおそる盗み見るが、その様子を終始見ていた店主から思わぬ歓待を受けることに。
“リアル”なラップを求めて、日々リリックを書き溜めるラッパー志望の慶太。ある日先輩ラッパーから明らかに怪しげなブツの取り引きを持ちかけられるが、待ち合わせ場所に偶然現れたのは取り引きとは無関係の「一香軒」の店主。眼光鋭い店主を取引相手と勘違いし、指定されたハンドサインを送る慶太は、そのまま強引に店に連れて行かれ、チーズ入り&衣ザックザクのボリューミーなカツカレーをふるまわれることに……。
人付き合いが下手で、偏屈な頑固おやじの正雄。優しい妻に先立たれ、何かと気遣ってくれる友人たちの誘いもむげに断る日々を送っていた。ある寒い冬の日、空腹のあまりひとり杖をついてフラフラしていた正雄と目が合ったのは「一香軒」の店主。何を思ったか嫌がる正雄を強引に担ぎ上げ、店内に運び込んだ店主は、中華を食べる気満々になっていた正雄の気持ちを華麗にスルーし、味しみしみの里芋とイカの煮物を涙ながらに提供する。
毎朝小学校の校門に立ち、生徒たちに笑顔を振りまく校長・向田。だがドライな今どきの小学生たちへのストレスと疲れから貧血で倒れ、早退を余儀なくされる。フラリと立ち寄った「一香軒」で、「何か精のつきそうなお料理を」とオーダーすると、店主は滋養満点のサムゲタンを作ると告げる。料理を待つ間、生徒たちから送られてきた激励動画を見て微笑む向田だったが、その音声を聞きなぜか店主も不敵な微笑みを浮かべていた。
なかなか勝てないボクサーの佐々木は、大事な試合を前に極度の緊張からランニング中にお腹をくだしてしまう。トイレを探すが見つからず、あわや……と思った時、「一香軒」の看板を発見。鼻息荒く店内に駆け込んだ佐々木を、ギロリと睨みつける店主。謎の敵意に戸惑いながらも、トイレを貸してもらおうとする佐々木に「座れ!」と一喝すると、店主はお腹に優しそうな梅のおかゆを佐々木の前にそっと置く。だが、その真意は!?
30歳目前になり、売れないアイドルグループからの卒業を翌日に控えたあやち。浮かない顔でオーダーしたのは、メンバーとの思い出の味=たこ焼きだ。表面はサクサク、中身はトロトロの大きくて丸いたこ焼きを一口食べたとたん、大好きなメンバーと共にセンターとして奮闘した日々の記憶があふれ出し、涙がこぼれる。苦手だった握手会への想いを思わず店主に漏らすと、店主はもはや神がかった勘違いを披露し始め‥‥‥。
学生時代から異常に存在感が薄かった38歳の島田は、友人からの勧めで怪しすぎる儲け話に乗り、すべてを失った。森の中で自殺を図ろうとするも、うまくいかず。死ぬこともできない自分に絶望し地面に寝そべっていると、最近ソロキャンプにはまっている店主が突然現れる。島田をキャンプの達人だと思い込み「師匠」と崇める店主は、最高のキャンプ飯=海鮮パエリアを島田にふるまうが、勘違いはさらにエスカレートしていく。
厨房で激辛の豚キムチを、賄い飯として1人で黙々と食べている店主。辛いものは苦手らしい店主だったが、20年前同棲していた恋人のユウホは無類の辛いもの好きだった。30歳を前に店主との結婚を意識し始めていたユウホは、ウェディング雑誌をさりげなく目につくところに置いてみるなど、なんとか店主に結婚を意識させようと健気にアピール。だがそんなアピールが店主に通じるわけもなく……。店主の過去が描かれる貴重な番外編。
店のカウンターでギラギラした瞳でSF雑誌を熟読している店主。雑誌にはUFOを呼ぶ方法が書かれており、すぐさま店先で実行に移す店主の異様な姿が……。そこに偶然通りかかったのが、修学旅行で長崎から東京に来ていた中学生の悟。最近の悟は同級生たちと話が合わず、この日も単独行動をとっていた。そんな悟を一目見るやいなや、いそいそと悟を店に招きいれるが・・・。
意中のホストにあっさりフラれ、泣きながら夜道を歩いていたキャバ嬢のウレハ。泣き疲れてふと目をやると、「一香軒」の看板が目に入る。空腹を覚え久々にラーメンを食べたくなったウレハは、「フツーのラーメン」というこのドラマで初の町中華らしい一品をオーダーする。だがその直前にキャバ嬢仲間と源氏名で電話をしていた会話の内容を聞いていた店主は、「普通ってのは一番難しいよね」と意味深に微笑み、究極のラーメンにとりかかる。
役者になることを夢見て上京した山下。だが10年経っても芽が出ず、生活は困窮。水道もガスも止められ、何日も何も食べられていない。ついに包丁片手にコンビニ強盗をもくろむも、勇気がなく断念。その時ふと漂ってきた焼きサンマの良い匂いに誘われるように「一香軒」にたどり着く。。そこには秋刀魚を七輪で焼く店主の姿があった。包丁を構え店主を脅すが、怖気付くことなく山下を抱きしめ、店主は土鍋で炊いたあたたかい塩むすびを握り始めた・・・。