人吉球磨の領主相良氏は、急峻な九州山地に囲まれた地の利を生かして外敵の侵入を拒み、日本史上稀な「相良700年」と称される長きにわたる統治を行った。その中で領主から民衆までが一体となったまちづくりの精神が形成され、社寺や仏像群、神楽等をともに信仰し、楽しみ、守る文化が育まれた。また、独自の食文化や遊戯、交通網も整えられ、保守と進取、双方の精神から昇華された文化の証が集中して現存している。司馬遼太郎はこの地を「日本でもっとも豊かな隠れ里」と記している。 人吉球磨のストーリーは2017年に日本遺産に認定されている。 今回は、ナタリー・エモンズと女優の宮崎美子が人吉球磨を旅する。 最初に訪れたのは、この地方の豊かな暮らしを支えた田園地帯。稲刈りを体験し、お米のありがたさをあらためて実感した2人は、新米と名物の栗を使った栗ごはんのおにぎりを稲穂に囲まれてじょんのびと味わう。この地方を流れる球磨川は日本三大急流のひとつ。スリル溢れる急流川下りを楽しんだら、ナタリーさんがこの地域で生まれた民謡「五木の子守唄」を歌う。そして、1尺にもなることから「尺鮎」と呼ばれる球磨川の天然鮎を刺身と塩焼きで堪能。江戸時代、貴重な米を使った酒造りが許された地域は珍しかった。人吉球磨では領主である相良家が庶民の娯楽を重んじたことから、米焼酎づくりを大いに推奨、今も多くの酒蔵が残る。2人は江戸時代から伝わる甕を使った伝統の焼酎づくりを見学、試飲させてもらう。さらに、「あんこ」と呼ばれる2段重ねのうな重を楽しみ、最後に訪れたのは平安時代から続く神社。秋の例大祭「おくんち祭り」で伝統の神楽を見物、神官といっしょに神さまに祈りを捧げる。懐かしい風景と豊かな文化が息づく隠れ里を満喫する。