「殺無生編」 凜雪鴉の命を狙って、執拗に彼を追いかけていた殺無生と凜雪鴉との過去の因縁が明らかになる。 凜雪鴉の用心棒を務めていた殺無生は、過去と決別するべく、凜雪鴉の勧めで劍技を比べ合う大会「劍聖會」に出場することとなる。 しかし、劍技を競うはずの大会に、弓矢の名手が参戦し、なにやら不穏な動きに……。 「殤不患編」 蔑天骸や玄鬼宗、魔神との戦いの後、平和を取り戻した東離。丹翡や捲殘雲たちと別れ、旅を続ける殤不患は、とある寂れた宿場の酒場に立ち寄った。そこで、一人の男に出会う。 その男は自らを「殤不患」と名乗り、蔑天骸や玄鬼宗の戦いについて語り始める……
斬られた者の精神を支配し操り人形にする魔剣、「喪月之夜(モヅキノヨ)」によって城下町を混乱の坩堝に陥れた蠍瓔珞(カツエイラク)は、殤不患(ショウフカン)に猛毒仕込みの爪で手傷を負わせ、絶体絶命の窮地へと追い込む。浪巫謠(ロウフヨウ)の尽力で辛くも脱出する殤不患だが、後から乱入した嘯狂狷(ショウキョウケン)と蠍瓔珞が激突。犠牲を厭わぬ嘯の暴挙で街の被害はさらに拡大する。 殤を取り逃がした蠍の耳元に妖しく囁きかける甘い声。それは彼女が喪月之夜とともに奪取したもう一振りの魔剣、「七殺天凌(ナナサツテンリョウ)」に宿る魔性の思念であった。 一方その頃、蠍瓔珞の毒の後遺症に苦しむ伯陽侯(ハクヨウコウ)を救うべく奔走していた仙鎮城の護印師たちは、路傍で農夫に無償で毒の治療を施していた謎の行脚僧、諦空(テイクウ)と巡り会う。
異能の歌声を生まれ持つ少年、浪巫謠。 雪山に隠遁した盲目の母親の元で、苛烈な修練を積んでいた。 母の野心は、息子の歌声を天下無双のものに完成させて宮廷へと送り込むこと。 だが苛烈に過ぎた修練は不幸なる事故を招き、母は浪の眼前にて命を落とす。 庇護者を失い、流浪の身となった浪。 その異才は心ない人々に利用され欲望の道具にされるばかりで、少年の心は次第に磨り減っていく。 それでも類稀なる歌声はついに西幽の皇女の目に留まり、浪はかつて母が夢見た通りの栄達を掴み取る。 だがそんな彼を待ち受けていたのは、為政者の慰み物として、他の楽師と生死を賭けた演奏勝負を繰り広げるという残忍な遊興だった。 そんなある日、浪は西幽各地で魔剣を強奪し我が物としている大罪人「啖劍太歳」の噂を耳にする。 そしてその啖劍太歳が狙う次なる獲物が、宮中に帝が隠し持つ聖剣であることも。
七殺天凌を捜索し魔脊山の谷底を捜索する凜雪鴉、殤不患、浪巫謠、捲殘雲。そこで見つけた横穴は、奇妙な宮殿へと繋がっていた。そこは刑亥が、かつての七罪塔の関門であった闇の迷宮を改装し、東離と西幽、さらには魔界をも連結する異空間として構築した魔の宮殿、無界閣(ムカイカク)であった。 禍世冥蝗の門弟である萬軍破、異飄渺と東離侵攻の算段を整えていた刑亥は、殤たちが無界閣の中へと迷い込んだことを察知し、迎撃へと赴く。 殤対異、捲対刑亥、浪対神蝗盟兵たちの大乱戦が始まる中、石像に絡む蔦から下がる逢魔漏(オウマロウ)のひとつが、不気味な輝きを宿し、やがて誰に気付かれることもなく、鏡のように異世界の景観を映しはじめる……。
逢魔漏によって、異世界へと飛ばされる凜雪鴉、殤不患、浪巫謠、捲殘雲。無界閣に残った刑亥、萬軍破、異飄渺は殤たちの行方を探るが、魔族を信用しきれない萬軍破によって足並みが揃わない。 一方で、谷底に転落しながら一命を取り留めた婁震戒(ロウシンカイ)もまた、異世界へと迷い込んでいた。手元から消えた七殺天凌(ナナサツテンリョウ)を求めて異世界を徘徊する婁は、時空の狭間に囚われていた隠者、鬼奪天工(キダツテンコウ)と邂逅する。 一方、もと来た世界へと帰還する経路を探す殤たちだったが、ようやく発見した脱出口を潜って出たその先は、なんと西幽の宮中だった。嘲風(チョウフウ)と思わぬ再会を果たしてしまった浪巫謠の運命やいかに――。