山本には、厨房で日々問い続けていることがある。 「この料理法は、本当に最上なのか?」という疑問だ。 なぜタケノコはアク抜きをするのか?なぜ大ウナギは地焼きにするのか?厳しい修行を通して身につけてきた日本料理の常識に、あらゆる角度から「なぜ?」を問い続ける。その目的はただ1つ、日本料理を「進化」させること。それは、想像を超えた過酷な道だ。 長い歴史を誇る日本料理、今に受け継がれているのは、歴代の名だたる料理人が生み出した最高の料理法だけ。思いつきのアイデアで、すぐに新味を付け加えられるような、簡単な世界ではない。「進化」とは、今まで誰も見出さなかった食材のうま味を、理にかなった方法で、取り出すこと。その食材の最高の味わい方であると確信出来て初めて、本物の「進化」と認められる。 山本は毎晩、営業が終わった深夜から明け方まで、厨房に立ち続ける。料理を化学反応に遡(さかのぼ)って学び、最新の実験器具を駆使し、全身全霊を傾けて、食材の可能性を突き詰めていく。その背中を押すのは、1つの思い。 「日本料理のオリジナルを作った人が、今の世にいたら、同じことをするだろうか?科学技術も流通も進歩した今だからこそできることが必ずあるはず。先人からバトンを受け継ぎ、一歩でも前へ進むこと、その幅だけが、自分が生きた証になると思う。」