大正十二年・初夏の太陽眩しい東京駅に降り立つ前田義信を迎えにきたのは第十六特務隊の森山だった。森山は中島中将の 命令で前田を月島の施設へと誘った。前田がそこで見たものは、女王サロメの台詞を高らかに放つヴァンパイアの姿だった。 ヴァンパイアは帝劇の舞台女優の岬であり、彼女をこのようにしたヴァンパイアが何者なのかを前田は追い始める。だが捜 査の中、前田の耳に岬が月島から脱走したと連絡が入って⸺。
栗栖秀太郎と山上徳一は、遠征したシベリアの地でヴァンパイアとなった。 彼らは人間としての生を終え、ヴァンパイアとして第十六特務隊の零機関へと編入される。そこにはヴァンパイアのマッドサイエンティストのタケウチ、見た目未成年のスワ、そして隊長である人間、前田義信大佐の姿があった。 帝都に増えつつあるヴァンパイアの脅威を退けるべく市内へと調査に向かったのはヴァンパイア専門の口入れ屋の天満屋だった――。
ヴァンパイアとなった栗栖秀太郎は社会的には死んだことにされていたがその実感がなかった。 また山上も家族に死亡通知が届けられている事実を受け止めてはいるものの人間であった日との決別ができないままだった。浅草の鬼灯市を見ながら、山上は妻である富子との思い出を栗栖に語り、けじめをつけるためにも別れの言葉をかけたいと呟く。 栗栖はヴァンパイアならではの『夢枕作戦』を実行に移し、山上と共に富子のもとへと向かう。
夜の練兵場に緊張の面持ちで村田刀を握る栗栖と相対する前田。迷いのある栗栖に前田は、甘さは仲間を滅ぼすと厳しく言い放つ。 吉原で遊女のヴァンパイアに殺された変死体が発見され潜入捜査に乗り出す栗栖たち。狙いは変死体の遊女が居た大店の長夜楼だった。潜入したスワは、そこで一人の遊女、明里に出逢う。明里はスワに自分の簪(かんざし)を渡し、ある約束を請う。 ひとときの安らぎが訪れる中、ヴァンパイア発見の知らせが舞い込む。
吉原に流れていたアスクラの出処が横浜の赤レンガ倉庫であることを掴んだ特務隊はそこに潜伏するヴァンパイアを殲滅すべく総攻撃をかける。だがその作戦を指揮するはずの前田は病床にあった。 隊長不在の中、海から横浜上陸を狙う零機関の面々。赤レンガに奇襲攻撃をかけ、陸上で待機する特務隊との挟撃作戦だった。それを立案した前田のためにも成功させると意気込む零機関だったが、作戦開始直後、思いもよらぬ事態に遭遇する。
大正十二年九月朔日。太陽の光の届かない帝都の地下、下水道の中を特務隊本部目指して進む栗栖と山上。横浜に現れた金剛鉄兵はいったい何者なのかを中島に問うためだった。 一方、スワとタケウチは横浜から撤収する金剛鉄兵たちの後を追いかけて月島に辿り着く。そこで多数の棺桶に語りかける中島を見てタケウチはひとつの結論を導き出す。 特務隊本部へと辿り着いた栗栖と山上は作戦室の前で軍刀を手に中島を待つ前田と出会う。
大正十一年・冬――、これは十六特務隊の前田義信がヴァンパイアとなった岬と出会う少し前の物語。 雪が舞う東京駅に降り立ったのはヴァンパイアとなる前の人間・中島岬だった。岬は帝国劇場の住み込み役者のひとりとして人生を歩み出していた。特別扱いを望まぬ岬に劇場が用意したのは他の劇団員たちが寝泊まりしている劇場のバックヤードの一画にある薄暗い屋根裏部屋。 だがそこはデフロットが塒にしている場所でもあった――。
帝都を襲った烈震から数日が経ち、崩壊した特務隊本部には栗栖の姿があった。 しかし其処に前田と山上の姿は見当たらなかった。ふたりの姿を探し、瓦礫の中を彷徨う栗栖の前に地獄と化した帝都の様子が広がる。突如、流行りはじめたヴァンパイア病が人間を襲い、軍はそれを抑制するワクチンを配布していた。 ヴァンパイア病が発症し人間を襲うヴァンパイアを制していたのは栗栖の知る十六特務隊の隊員たちが成り果てた金剛鉄兵たちだった。
千本鳥居の天満屋に居候することになった栗栖は前田たちの行方を探していた。 そのとき彩芽から子供のヴァンパイアを殺している者がいるという噂を聞かされる。その真相を確かめるため栗栖は月島へと向かう。月島に地下に作られた第十六特務隊の地下基地へと足を踏み入れるとどこかしらか人の声が聴こえてくる。それは前田の声だった。 前田の姿を求めて奥へと向かう栗栖の目の前に事切れた子供のヴァンパイアとスワの姿があった。
徘徊するヴァンパイアを倒す金剛鉄兵を冷ややかな目で見つめるデフロットは死を疑似体験できる舞台を失い静かな滅びの時を待とうとしていた。 そんなデフロットに葵が帝国ホテルのロビーを使って劇をやってほしいと話を持ちかける。一方、零機関の栗栖たちは特務隊近くの濠の中から大きな荷物を引き上げていた。 その中にはタケウチが研究に使っていたヴァンパイアの血液と数々の発明品の中に空を飛ぶ機械の図面があって――。
月島の零機関施設にある太陽の光差し込む一室で葵とデフロットの前に現れたのはヴァンパイアと化した前田だった。 意識朦朧の前田は使命感に従いデフロットに斬りかかる。人知を超えたヴァンパイアの攻防を目の前に戸惑う葵。前田に圧され倒れるデフロットを庇う葵に前田の刃が突き立てられて――。天満屋で飛行装置を作る栗栖の耳に飛び込む超音波。 それは死へと向かいつつある葵を助けろと命じるデフロットの心の叫びだった。
瓦礫と化した帝都の冬――、市街地では数を増したヴァンパイア排除に陸軍が対応にあたっていた。 だが対抗できる唯一の力は新たに特務隊隊長となったルーファス指揮する金剛鉄兵たちだった。此の世の春とばかりに自らの指揮に酔いしれるルーファスは更なる野望を遂げるべくアメリカ渡航を企てる。 帝国ホテルで行われたアメリカ大使の送別パーティで、ルーファスの目の前に現れたのは太陽に焼かれたはずのデフロットだった。
前田義信は幸せな夢を観ていた。己のもうひとつの生き様となる夢を。 だがその夢の中に死の影が静かに伸びてくる。 その影の名は栗栖秀太郎。 自らが一人前に育てようと誓った零機関の部下だ。 夢現の縁に立つ前田の前で自らの為すべきことに戸惑う栗栖。前田を斬らねばならない。本能のままにヴァンパイアを斬る前田を野放しにすれば東京脱出を図るタケウチたちに危機が及ぶからだ。 栗栖は刀を握りしめ前田へと向かっていく――。