小諸城址にある懐古園の地獄谷で、頭部が血まみれの男性の変死体が発見された。被害者は税理士・萩原春男、死亡時刻は前夜の午後11時から午前1時。現場に駆けつけた“信濃のコロンボ”こと竹村岩男は、被害者のポケットに入っていた上田駅前ホテルのラウンジの2人分のディナーコースの領収書と、死亡当日の欄に「午後五時・打ち合わせ・軽井沢アリスの館」とハートマークが書かれた手帳に目をつける。 竹村はペンション「アリスの館」を訪ねる。そこには清楚な雰囲気を漂わすオーナー・根岸絵里と、その外壁の修理を依頼された工務店社長・土屋勉が親しげに話す姿があった。 県警は萩原の足跡を洗い始める。萩原は三十過ぎの地味な女性とディナーを共にしていたという目撃情報が得られた。 やがて解剖結果が出て、被害者は後頭部を鈍器で殴打されたことがわかる。殺人事件と断定され色めき立つ小諸中央署。刑事課長・中原の見方は、アリバイのない妻・房江が夫を殺害したというもの。しかし竹村は、萩原の派手な女性関係に目を付け、ディナーに同伴した女性を調べる方針を出す。 竹村はモーテルを当たり始めた。ディナーをとったホテルは、情事に耽るには人目につきすぎるからだ。小諸市郊外のモーテルで、萩原の外車を映した防犯ビデオが見つかる。相手の女性は誰なのか。やがて聞き込みにより女性の似顔絵が完成、それは「アリスの館」の根岸絵里によく似ていた。 竹村は絵里について調べを進める。軽井沢の別荘で生まれ、東京で育ったという絵里。実家の根岸家の周辺を探るために、竹村は盟友である警視庁捜査一課の警部・岡部にも連絡をした。 その頃「アリスの館」では、絵里と画家である夫・嘉男が、実姉・由紀とその夫・広志に詰め寄られていた。遺産相続のトラブルだった。根岸家は東京・日本橋に店を持つ老舗商家だったが、3年前に父が急死した頃には商売が行き詰まっていた。債権者に押しかけられた絵里はやむなく店を手放し、軽井沢の別荘を改造してペンションを始める。当時、由紀は財産相続権を行使しなかったのに、今頃になって財産の分与とペンションの共同経営を要求してきたのだ。由紀夫婦の勝手な言い分を、嘉男はきっぱりと断る。婿養子のくせに、と悔しさをにじませる由紀。しかし帰り際、由紀は「嘉男は東京に愛人がいる」と絵里に耳打ちする。さらに、絵里と萩原との特別な関係をつかんでいる様子をほの