打ち上げ6日前。 先日行われたジョンソン宇宙センターでの最終面接は、実はフェイクだった。 すべての選考が終わったと思い込み、肩の荷が下りきった「素」に近い受験者たちを、現役の飛行士たちが事細かにチェックするためである。 このことを知らない受験者たちは、親睦会でそれぞれ思い思いの時間を過ごしていた。 その会場で、紫から『吾妻にはむやみに話しかけないほうがいい』とアドバイスを受ける六太。 だが六太は、吾妻には一番に挨拶すべきと思っており――。 『ビビることはない……! オレはもうすでに、一度死んでいる!』と、挨拶しに行ってしまう。 しかしいざ吾妻に挨拶をしようにも、まったく会話が続かない。 焦る六太に、吾妻は一つの質問を投げかけた。 「死ぬ覚悟はあるか――?」 六太は『当然ある』と答えたが――しばしの沈黙後、言い直した。 「本当は死ぬ覚悟、できてないです。多分、こりゃもう死ぬなって瞬間が来たとしても、ギリギリまで生きたいと思いそうです」 かつて、吾妻もブライアンに同じことを質問され、『死ぬ覚悟はなく、考えるなら生きることを考える』と答えていた。 ブラインはその解答に満足し、『死ぬ覚悟なんていらない、必要なのは生きる覚悟だ。NOといえるヤツがいたら、そいつは信じていい』と吾妻に言ったのである。 吾妻は日々人にも同じ質問をし、同じ解答をしたことを思い出していた。 兄弟そろって『信じていい者』と、感じられたようだった。 打ち上げ4日前。 六太たち家族は、月へ行く飛行士たちと最後の食事をするため、ケネディ宇宙センターへ来ていた。