石を叩(たた)いて55年の経験を持つ、石工・左野勝司(69歳)。これまで、イースター島のモアイ像の修復、エジプト・スフィンクスの保全調査、そして1300年の歴史で劣化した高松塚古墳の解体など、世界18か国でその腕を振るってきた。 左野は、機械を極力使わず、徹底的にハンマーとノミだけの作業にこだわる。石の「目」と呼ばれる特徴を見極め、何時間もハンマーを降り続けて自らの思い描く形に石を仕上げていく。 左野の愚直な姿勢は、石を修復する時も変わらない。今年、左野に舞い込んできた、世界遺産、奈良・春日大社の石灯籠修復の依頼。平安時代からの灯籠が立ち並ぶ、重要な文化財だ。通常、灯籠の修復は、傷んだ部分全体を取り替え、壊れた部分はカットして新しい石を継ぎ足すが、左野はできるだけ元の石を生かす方法を選ぶ。石の割れ面に合わせて新しい石を彫ることで元々の凹凸に石同士がかみ合い、100年単位で見れば、長持ちすると考えるからだ。その方法が石にとって最も良いなら惜しみなく時間と手間を注ぎ込む左野。「手間を惜しむな、積み上げろ」。それこそが左野の信念だ。