吉永誠一は、神奈川県警捜査一課の刑事。臨月を迎えた一回り年下の妻・照子とは仲睦まじい夫婦である。横浜の雑木林で、死後半年経過した男性の白骨死体が発見された。被害者の推定年齢は50~60歳、骨の損傷や毒物の検出はなく、遺留品も残されていなかった。警察は行方不明者の中で被害者と身体的特徴が似ている人物をリストアップし、捜査を開始する。吉永は一課のお荷物的存在・小沢とコンビを組まされ、渋々捜査に繰り出した。 吉永たちは鎌倉にある黒田邸を訪れる。主の黒田道弘は半年程前、稲村ヶ崎で海に転落したまま遺体が見つかっていなかった。黒田のかかりつけの歯科医を訪れると、歯の特徴が一致したため、白骨死体は黒田と判明する。 翌日、吉永たちは日本画家だった黒田と絵の取引のあった画商「鹿野昭峩堂」の店主・鹿野伊三夫を訪ねる。鹿野は、黒田の絵は完璧すぎて個性に乏しく、画家としては最低ランクだったと明かす。 その後、吉永たちは鹿野に誘われ「熊谷画廊」創立25周年のパーティーに同行した。オーナー・熊谷信義も黒田の絵を年に数点買っていた。鹿野は、もし黒田が殺されたとすれば、その理由は「贋作」にあると断言する。10年前、日本画の大家の一人、奥原煌春の贋作が関東一帯に出回った事件があり、その捜査が黒田にも及んでいたという。 当時、贋作の出所は鎌倉の旧家の当主・加賀谷であったことが確認されていた。警察はさらに裏で糸を引く黒幕の存在もあると睨んでいたが、決定的な証拠が掴めず、その後加賀谷は病死。さらに加賀谷の依頼で何も知らずに奥原の絵を模写していたという日本画家の卵、吉井百合子が服毒自殺をするという後味の悪い結末となっていた。 さらに、鹿野から昨年の8月末、奥原の贋作10点が展示即売会に出されていたという話を聞く。持ち込んだのは、美術関係の出版社を経営する傍ら、画廊「仁仙堂」の社長を務める細江仁司。翌日、「仁仙堂」を訪ねると、何と細江は昨夜から行方不明になっていた。応対に出た社員の伊原聖子は、奥原の贋作の行方について固く口を閉ざす。 黒田の白骨死体が発見された2日後に起きた細江の失踪…鹿野は、奥原の贋作の流れを知ることが黒田殺しと細江失踪の謎を解く鍵だと強調する。鹿野の事件に対するのめり込みようにいささか疑問を抱く吉永だったが、彼の案内で細江の自宅を訪ねることに。そして妻・冴子から、細江が持ち帰った奥原の贋作