全国各地を転々と渡り歩くさすらい署長・風間昭平は、前署長・藤田の失踪という前代未聞の不祥事を起こした秋田中央署に赴任した。失踪した10月10日からちょうど1カ月、事件性や自殺の可能性はなく、風間は藤田が自らの意思で姿を消したと考えていた。 署では、署長失踪と同じ頃に起きた殺人事件の捜査に苦労していた。被害者は、角館観光タクシー運転手・煙山太一郎で、10月2日早朝、共同墓地でタクシーの助手席で死んでいるのが発見された。死亡推定時刻は前日の午後8時から11時の間で、死因は背後からの絞殺、殺害現場は別の場所と見られた。 風間は藤田の妻・頼子を訪ねた。藤田は失踪当日の朝、頼子の兄・横沢宏から電話を受けていたが、大した用ではなく、署でも確認済みだった。部屋には、頼子の趣味だという東北を旅した文人の本が数多く並んでいた。後妻で子供はいないが、夫婦仲は円満…公私共に恵まれた男の突然の失踪に、風間は頭を悩ませる。 翌日、風間は上杉刑事と死体発見現場の共同墓地を訪れた。煙山はギャンブル好きから借金を抱えていたが、6月半ば頃から急に羽振りが良くなったという。墓地には「菅江真澄」と刻まれた墓があった。上杉の話では、生涯を旅に生きた秋田では誰もが知っている有名な文人だという。そこへ、秋田日報の記者で"スッポン"の異名を持つ笹木が現れた。笹木は署長失踪の真相をしつこく探っていた。 タクシー運転手殺人事件の捜査会議では、タクシーのタイヤや運転席の床などから検出されたイチョウの実が、煙山の靴や衣服から出てこなかったことから、犯人がイチョウの木のある犯行現場から死体遺棄現場まで自分でタクシーを運転してきたと考えられた。また、賭場に出入りしていた煙山と鶴田組事務所との関係も浮上するが、手詰まり感は否めず、風間は死亡時に煙山が着ていたタクシー会社の制服から紛失していた金ボタンを公開捜査にする。さらに、煙山は同じ角館出身の人気芸者・ゆき江に一方的に熱を上げていたが、彼女はかつて失踪中の藤田と深い関係にあった。 ゆき江に会いに行った風間は、藤田を"フーさん"と呼んで楽しそうに昔を語るゆき江に好感を持つ。藤田とは綺麗さっぱり別れたというゆき江は「フーさんと煙山の事件に繋がりがあるのか」と予想外のことを口にする。 やがて、煙山が殺された事件当夜、11時半過ぎにゆき江の赤い車がマンションに入って行っ