短編とするため大幅に省略しているが、科白を全て原作から抽出した文言としている(ナレーションは用いていない)。しかし、科白に伴う回想シーンを比較的リアルな画面に切り替えているのを除いて、ほぼ全編を1つの座敷内またはその座敷の周辺の空間で、演劇の立ち稽古(読み合わせ)のような形で展開している。服装は原作の人物属性を大袈裟に表現したものになっている。佐清のマスクは演じる俳優の頭部を正確に写した被り物で、単に異様に大きくすることでマスクだと判るようにしている。 犬神家一族の者は最初から最後まで同じ位置で立って発言するのを基本とし、佐武はその場で首と菊人形の胴体に、佐智はその場で椅子に縛り付けられた死体に、静馬はその場で盥(湖の代わり)から突き出た2本の足になる。佐智は元々珠世の隣にいて、単にクローズアップされた状況で昏睡させ、その場の足元で横になって強姦未遂に及ぶ。小夜子は一言も発言せず、特に後半では発狂した様子を黙々と演じ続けている。 金田一、古館弁護士、橘署長ら警察関係者は、一族の者の間や周囲を動き回る。大山神主、猿蔵、柏屋の亭主と女中は必要に応じて書院の窓の外から発言し、あるいは窓から入ってくる。青沼菊乃は回想シーンのみに登場し、宮川香琴としての登場部分は省略されている。若林豊一郎は遺言状の写しを入手したことと殺害されたこととを1つの回想シーンで表現しているため、原作と矛盾する映像になっている。