トタン張りの小さな建物が肩を寄せあうように立ち並ぶ飲み屋街。60年以上、女たちが守るこの場所は、人生の重荷を下ろし、心をほどく場所なのかもしれない… 茨城県日立市の国道沿いに、まるで終戦直後にタイムスリップしたような佇まいの不思議な一角がある。12軒の小さな店が並ぶ「塙山キャバレー」 2024年の夏の終わり、コロナ禍で中止されていた「はなやま祭り」が5年ぶりに開かれると、どの店も大にぎわい、ママと酔客たちの笑顔で溢れていた。しかし、その一方で、塙山キャバレーにとっては“一大事”が起きていたのだ。79歳の「いづみ」ママが、店の40周年を機にのれんを下ろすことを決めたのだという。 ひときわ明るいキャラクターで、ママたちにも、客たちにも愛されてきた「いづみ」ママ。かつて塙山キャバレーで営んでいたラーメン店から火事を出し、自分の店も行き場も失くしていた「のぼるちゃん」を優しく受け入れたのも「いづみ」ママだった。そして迎えた最終日。店には常連客が詰めかける中、現れた意外な客の姿…今は、この世を去ってしまった常連客の子どもだった。 「いづみ」ママを見送った数日後、塙山キャバレーのママたちの心を揺るがす知らせが…「店の新規募集はせず、建物を取り壊す」というのだ。店が減っていけば、徐々に街のにぎわいは失われる。果たして、この街の行方は… 女たちが守り続けた塙山キャバレーの5年にわたる記録。 【語り】岡崎紗絵