敏夫はヨット・ファラオン号で走り疲れた体を入江に横たえ、崖の上でハーモニカを吹いていた。それを聞いていた小説家の堤は、敏夫のヨットに乗っていた美しい黒髪の少女のことを彼に聞いた。少女と同船したおぼえのない敏夫は、堤の頭がオカシイのではないかと思った。その夜は嵐で海が荒れた。翌朝、敏夫はヨットをみにいくと、黒髪の少女が全裸で生魚をかじっていた。彼が近づくと少女は海中に飛びこみ、姿を消した。村の新作青年が鱶に食い殺されるという怪事件が起った。彼の家では三代つづいて息子が奇禍に会い、その時には必ず不思議な女が現われるという。その夜、敏夫のベッドに血のついたシャツで身体を隠した例の少女が現われた。彼女は無邪気に話かけ、二人はいつしか仲良しになった。少女はその晩帰らなかった。翌日、少女に案内されて海にもぐり、新作の死体を発見した。敏夫の報せで村は大騒ぎ、新作の祖父は少女をみてふるえ出した。その夜、少女は来なかった。翌日、彼女の姿はどこにも見当らなかった。ある日、登山に出かけた敏夫は別荘に電話をかけた。そこには兄の克彦と少女がいた。彼は不安に襲われた。翌日、克彦は少女と海に出て死んだ。東京から母もかけつけた。少女が鱶の化身だから殺せと、新作の家族がいってきた。敏夫は少女を守る決心をした。家の者が彼を部屋に檻禁した。ヨットに隠れていた村の者たちは、少女が現われるのを待った。暗い海面が揺れ、少女が現われた。一本、二本、三本……鋸を少女めがけて打ちこんだ。夜をつんざく悲鳴、みる間に少女の体は巨大な鱶に変った。一瞬!尾ヒレをふったとおもうと、鱶は海中に姿を消した。翌朝、海は何事もなかったように静かだった。敏夫は思い出の海に向ってかけだした。海に入って敏夫は、力のかぎり、どこまでも、どこまでも、沖に向って泳いでいった。
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