マヤは東京郊外の菅洋服店の主婦として、埴輪を愛する優しい主人との間に一人息子の勝巳をもうけ平和な日々を送っていた。或る日、マヤはデパートで昔の仲間せんにめぐりあった。せんとマヤは終戦直後の荒廃した東京で、売春婦をしていた仲間であった。十八年前、関東小政と呼ばれたせん、ボルネオマヤと呼ばれたマヤ、そしてふうてんお六の安井花江、ジープのお美乃、人妻の町子らは体を賭けて生活していた。そんな彼女の生活の中に、暗い影をもつ伊吹新太郎がころがりこんできた。若い男の体臭は、マヤたちの間に、醜い争いごとをひき起した。仲間の掟は、すさまじいリンチとなり、お互いの心をさぐりあう毎日であった。伊吹が、牛を解体してスキヤキパーティーを開いたある夜、マヤは、伊吹を小蒸気船に引きずりこむと、初めて女のよろこびを知った。だが、マヤは激しいリンチの末仲間から追放されたのだった。その伊吹は今は、クラブのママにおさまったおせんの所に、出入しては、密輸麻薬に関係するヤクザになっていた。話を聞いたマヤは、何故か心が騒いだ。一方おせんも幸福なマヤの姿に刺激され、伊吹との家庭を夢みたが、伊吹は、おせんを裏切りマヤを、大磯の宿に呼んだ。思いあまったマヤは、おせんを訪ねた。伊吹を中心に二人の女心は微妙に曲折した。その日、おせんから、「あんたは、特定の夫を得ただけで、相変らず肉体を売り、妻の座を得ているのだ」と言われ、黙って大磯に向った。生きることに疲れ果てた伊吹は、マヤとベッドを伴にしたあと、睡眠薬自殺を計った。冷たい骸となった伊吹を見たマヤは、初めて自分の幸福なことをかみしめた。自殺幇助罪で自分は刑務所に行くだろう、だが、もう一度夫との愛に真実の生活を送ろう、部屋から出るマヤの表情は明るく、美しかった。
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