盆の十六日。燈籠流しの宵に旗本の三男坊新三郎は、吉原の遊女お露を知った。その夜、新三郎の住居を訪ねたお露と下女のお米は、武士の娘でありながら吉原に売られた不幸な身の上を語った。新三郎は、三男坊で長屋暮しをしている自分と同じように、お露が非情な社会の仕組の犠牲者であることに胸をつかれた。そしてお米のたっての頼みから、せめて盆の間だけでもと、お露と祝言の真似事をして契りを結んだ。一方同じ長屋に住む伴蔵が、この有様を覗きみた時、お露の裾が消えているのに仰天、易者の白翁堂に駆け込んだ。伴蔵から様子を聞いた白翁堂は、翌日、新三郎の顔にまざまざと死相を見て驚き、新三郎にそれが悪霊のためだと言う。一方、伴蔵はお露とお米が、最近自害して果てたことを聞き込んできた。新三郎は信用しなかったが、二人の女の墓を見ては信用せざるを得なかった。その夜、再び現われたお露に、新三郎は狂ったように斬りつけた。しかし、お露は新三郎の心変りを悲しみ、哀れな運命を物語った。そんなお露の姿に、新三郎は心をうたれ、ひしと抱きしめるのだった。やがて新三郎は日毎にやせ衰えて行った。長屋の人はそんな新三郎を心配し、また悪霊の退散を祈願して、新三郎を籠り堂に閉じ込め、護符を張りめぐらした。そのため、お露とお米は仕方なく一度は帰ったが、金につられた伴蔵が、護符の一枚をはがした。お露とお米の二人は喜んで手をとり、戸口の隙間から吸い込まれるように入っていった。一夜あけて、白翁堂や長屋の人たちが新三郎の身を案じて入ってみると、新三郎はこと切れ、彼の首にしゃれこうべがすがりつき、その脇にもう一つの女の骸骨が横たわっていた。
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