自動車セールスマン梅木は、東京郊外を疾走中、若い人妻風の女に呼び止められ、ホテルオーハラまで送り届けた。バックミラーに映った美しい、冷たい横顔が梅木には印象に残った。翌日、梅木の事務所に、女から手帖を車に置き忘れたと電話があった。早速手帖を届けた梅木に、女は艶然とほほえんで、身元を打ち明けようとしなかった。翌日、ホテルを訪れた梅木は、女のいないホテルで浜田と名乗るサラリーマン風の男に会った。浜田もまた女を捜していた。数日後梅木は、ふと見たファッション・ショウの写真の中に、例の女がいるのをみつけた。彼女の隣に並んで写っている楠尾産業社長楠尾英通を訪れて聞き出そうとしたが、楠尾は口を割ろうとしなかった。梅木はショウの主催者山辺女史に会い、女は江藤みゆきと言い、楠尾英通の妹であるという事実を知った。楠尾家にはりこんだ梅木は、みゆきを待伏せ、二人はホテルに入った。その夜みゆきは、兄英通の策謀で、中国地方の豪商で半身不随の男と結婚したが、死んだような日々に退屈したみゆきは、上京しては、刺激を求めていたと語った。みゆきの言動に不安を感じた梅木は、恋人の節子を楠尾邸に住みこませた結果、みゆきが英通に恨みをもっていることが判った。その頃、みゆきは、下町のアパートで同棲していたやくざの村岡殺害事件にひきこまれていた。直ちに英通を疑った梅木は、英通に迫ったが、英通は梅木の推理を否定した。数日後、意外にも第二の殺人事件がもちあがった。みゆきが実家からの電話に呼び出されている間に、英通が殺害されたのだ。その夜、みゆきは、梅木に自分の過去を打明けた。みゆきと英通は異母兄妹で、みゆきは、女学生時代英通に犯され、日頃から憎悪を持っていた英通に強い憎しみを抱いた。そして、兄の紹介で、江藤と政略結婚をしたが、この兄の弱味につけこんで、英通に復讐をすることを決意した。また村岡はかつて楠尾家の書生で、みゆきは好意を抱きつづけていたが、再会した時はやくざの生活を続けていた。そして二人の関係は最も平凡な男女の関係に入っていったという。全てを聞いた梅木は、山口に帰ると言ったみゆきの後を追った。酒造業の老舗江藤平右衛門商店を訪れた梅木は、主人の顔を見て愕然とした。その顔こそ、東京で見た浜田の顔ではないか。歩けないといった主人が、現に歩いている。二つの殺人も彼に違いない。梅木は恐ろしさに立すくんだ。そんな梅木に江藤は、みゆきを自由にする男は許せないと言い挑んで来た。みゆきに事の真相を告げ、駅で待つ梅木の耳に、江藤夫妻無理心中の報が入った。
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