足立太は青雲の志を抱いて上京、本郷の第三下宿荘に下宿した。その下宿は、八十近いかくしゃくとしたバアさんと無愛想なジイさんが管理しており、案内された四畳半のカビ臭ささと薄暗さに太は仰天する。家賃前払いで早くも金欠病、さらに勤める予定の会社が倒産、太は愕然とする。失意のドン底で、太は下宿で理知的な美人のジュンに出会い、パット気持ちが輝いた。しかし、その彼女もジュリーというダメヤクザと同棲していたのだ。太は困窮生活から脱出すべくアルバイトに精を出すがドジの連続。そんな太を、ジュンは優しくなぐさめ、そして躰を重ねた。太十九歳の春であった。太は電気屋でバイトを始めた。しかし、そこでもドジの連続、主人の健二は太をクビにした。太に好意を抱いている同じ店の早苗の気持ちも知らずに。数日後、太の元へ早苗がたずねて来て、来月挙式すると話す。その夜、挙式を祝ったあと、二人は結ばれた。翌朝、太の枕元に置き手紙があった。「義兄と式を挙げます。義兄が最初だなん不潔でいやだったんです……」。第三下宿荘には事件が絶えない。組を除名されたジュリーのために、ジュンがブルーフィルムのモデルをかって出る。太はジュリーを「人間のクズ!」と言って追い回す。数日後、下宿にパトカーがやってきて大騒ぎ。ジュリーの組の幹部がワイセツ物の販売であげられ家宅捜査にやってきたのだ。そんな騒動の中、花嫁姿の早苗が現われ、「あなたに見てもらいたかったの」と言い残して去っていった。泣いているのか笑っているのか判別できない早苗の顔を呆然と見る太の耳元に「今なら間に合うわ」とジュンがつぶやく。太の耳元から一筋の涙が頬をつたって落ちた。ジュリーたちが参考人で連行されたあと、太は一人膝小僧をかかえて暗い部屋にうずくまっていた。「いつかみちょれ」太は口びるをかんで涙をこらえていた。今、この大四畳半には確かに青春が、月光に照らされながら息づいている。
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